死んで転生したらすでに闇堕ちした戦乙女だった件
遊英
プロローグ
第1話 謎の声、謎の記憶、謎の少女
「あお君とお別れするのはさみしいけど、今生の別れじゃないから。お互いが決して忘れなかったら、いつかまた出会えるよ!」
「あと。。。これ!ただの腕時計じゃないんだからね?なんとこのボタンを押すと光るのです!」
森がかなかなと夏を主張する8月。ぼくと彼女はとある神社の敷地でヒミツの会談なるものをしている。なんでも彼女の指定する場所がいつもここなわけで。。。
「腕時計なら、ぼくのお父さんがこうこうせいになったらくれるって言ってたから、ぼくいらないよ。それに光るもので興奮するのは小学生までだって田原のじいちゃんがいってた」
「人類は光を放つものに常に魅力を感じて生きているものなのだよ。そんな素っ気ないことを言うでないぞ?さあさあ」
子供をあやすように黒光りする普通の腕時計よりも大きめの、Gの衝撃に耐えられそうな時計くらいのやつをぼくの右手に握らせる。
彼女が言うには今日海外に家族で移住するそうだ。ぼくはまだ彼女のお父さんにもお母さんにも会ったことがない。ぼくの家で遊ぼうと言っても、遠いからやだと断られる。僕は彼女に家の場所なんて教えたことがないのにと、口からこぼれてしまいそうになるのを、ぐっとこらえた。
にしても、彼女もまだぼくとそこまで年も変わらないのに、子供とは思えない口調がひっかかったりする。少し年上のお姉さんと話しているような。
「今失礼なこと考えなかった?」
「そんなことないよ。大人っぽいねってだけ」
「ふーーん?ま、私大人っぽいからね」
自分で言っちゃうんだ、と苦笑する。しばらくのお別れだっていうのに、こんなにもいつも通りでいいのだろうか。
「いいんだよ。別れなんて、悲しまない方が万々歳なんだから。。。ね?」
どこか肌寒い風が吹き抜けていく。今一瞬だけ、秋風のような哀しさがこの辺りを包む。
「最後に、名前教えてよ。ずっと教えてくれなかったじゃん」
ぼくはずっと彼女のことをねえねえとかで呼んでた。最初に会った時からたびたび聞いていたのだが、いつもはぐらかされたり、呼ばなくても成立するように会話を誘導してきたりしていたのだ。
母方の祖父母の家に夏休みの間帰省しているぼくと違って、最初からこの村にいて、明日海外へ旅立つ彼女。たった一週間とちょっとの、神社での関係だったけれど、それはとても不思議で、面白くて、待ち遠しい時間となった。そんな時間をともにした彼女だからこそ、とうとう名前を知らずにバイバイと手を振って別れることなどできないのだ。
しかし彼女は少し悩んだ挙句、名前だけならと言ってきた。こうも人に自分のことを知られたくないのかと半ばあきれながらも、ぼくは一度しか言わないという彼女の名前を聞き逃さぬよう研ぎ澄ましている。かなかなが無性にさきほどよりもけたたましい。
「私の名前は―――――
ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ
朝六時に設定してある目覚ましが今日も鳴る。土曜日だというのにこんな朝早くから起こされた俺は、昨日目覚ましを解除するのを忘れた自分の夜の行動を思い出しては、このやり場のない怒りを二度寝へと費やそうとするが、六時だというのにこの明るさに鳥のさえずりが止まないせいで覚醒してしまった。
「またあの夢か」
ここ最近のことである。幼少のころに母方の村に帰った時の場面であることは確かなのだが、どうしてこの神社に来たのかも、彼女が誰なのかも、全くもってわからない。『昔結婚でも約束した美少女と10何年ぶりの再会し、迫られるのだが、忘れたなんて言えない』なんてラノベを読んだからだろうか、自分にもこんなことがあった気がするとふと思い始めてからこれだ。妄想癖がすすんでしまったのかもしれない。
―ねえ―
声が聞こえる。聞こえだしてしまった。僕もとうとう頭がどうにかなってしまったようだ。こういうのはどう治したらいいのだろうか。精神病でもなければ危ないナニカを使用したわけでもない。
―助けて―
これで助けたらお礼に同居とかなんかそういうのもあったよな。どうして自分はここまで犯罪思考に染まったのだろうか。
―だから早く助けてってば―
「ああもううるさいなぁ!少し黙ってろよ!」
「なに叫んでるのあんたは!!いっつもいっつも勉強もしないで!そんなしょうもない絵描いてないで、さっさと勉強するなりしなさい!!」
いつものように、母の怒号が聞こえてくる。高校三年生にもなって、ろくに勉強もしない僕のことが鬱陶しくて仕方ないのだろう。かといって、僕もやりたいことがあったらしっかり勉強している。
僕には夢がないのだ。昔からそ―――――――――
――助けて。あお君――
こんなに自分の心の中を遮られるのはなぜだ。僕は自分の意志をもラノベに浸食されてきたというのか。。。
え、いや待てよ。
「あお、君、、、?」
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