ゲーティアvsアイザック・ニュートン

ゲーティアvsアイザック・ニュートン

 視聴率五六パーセント。

 全国生放送。

 故に、ゲーティア復活を知った強豪チームの監督達が、それぞれの有力戦士非常招集し、国立競技場へと集結しつつあった。

 ゲーティアの目論見が復活だけに留まらないのなら、状況次第で対応すべき人材が必要だ。

 チームレジェンズのポラリスもまた、ガレリオを連れて来る以外に、チームの主戦力を数名連れて来るためにやって来たのだった。

「それで? 常勝無敗のチーム監督様は、この戦いをどう見るよ」

「……正直、キツいかと。急所をやられているうえ、こちらの攻撃はほとんど効果が見られない。このままでは、時間が経過する毎、どんどん不利になっていくだけ。何か、突破口を見つけ出さないと」

「ま、俺達は凡人だからなぁ……だが、天才なら、見つけ出してるかもしれねぇ」

 重力が傾く。

 地面が引っ繰り返ったかと思わされるが、実際に引っ繰り返っているのは重力だけ。ゲーティアは片膝を突かされ、ニュートンは自ら傾けた重力負荷に従って疾走、基、落下した。

 赫く輝けるエネルギーを右手に籠めて、片膝を突くゲーティアの腹の真ん中に拳として叩き込んだ。ゲーティアの巨体が、重力を無視して高々と舞い上がる。

 最高到達点までゲーティアの体が浮かび上がったところで、重力が集束。蒼く染められて可視化された重力の螺旋が、高々と舞い上がったゲーティアの背に突き刺さる。

「“一点集束ぐんじょう”」

 さながら、上空数千メートルを飛ぶヘリコプターから、両手両足に重しを付けて竜巻の中に飛び込まされているような感覚。

 無理矢理に回されている体が捻じれ、首と胴が引き千切れそうになるが、頑強な体はそう見えるだけでそうはならない。

 わずかに期待はしていたが、一喜一憂している場合ではない。出来る限り、出来得る限りの重力負荷を掛けて落とす。

 高度な計算なんてしていない。

 より高い場所からより速い速度で落とせば、より強い衝撃を与えられると単純に考えついただけの事。

 だが、そんな単純思考が単純に効く場合だってある。ニュートンはその可能性に賭けていた。

「さぁ落ちろ! あの日のリンゴが如く!」

――“我仮説を作らずハイポテェシィズ・ノン・フィンゴ”!!!

 ソニックブームが生じ、姿が明確に視認出来なくなった超高速の飛行物体ゲーティアが、大気摩擦で火を帯びながら落下。

 戦場を貫通し、様々なフィールドを内包した地下施設へ叩き落されたゲーティアの五体は表皮をバラバラに砕きながら、最下層にまで落下した。

 震度五か六並の衝撃と震動とで、会場は騒然となる。特に日本に観光で来た外国人は一層慌てふためき、パニックになり欠けたが、地震大国日本の人々と転生者らが治め、会場は何とか収束した。

 椅子から転げ落ちた安心院あんしんいんは後頭部を押さえて痛がり、南條なんじょうはボラリスの襟首を持ち上げ、何気に守っていた。守り方は問題だが。

「は、離して下さい……! こんな、子猫のような……!」

「へいへい」

 離せと言われたので、そのままと手を離す。

 その場で尻餅を突いたポラリスはグシャグシャな前髪の下から南條をめ上げたが、南條は完全無視で、ドローンが撮影する映像を見ていた。

 既に戦いの場は崩壊した表の戦場より、戦場の地下へと移っていた。

 ドローンの映す映像には、ゆっくりと降りて行ったニュートンと対峙するゲーティアが首を鳴らし、ピンピンしている姿が映っていた。

 観客が絶望的観測で見つめる中、ガリレオ含めた転生者らの目は違っていた。

【どうした。今のでもう終わりか。我が鱗を砕くだけで関の山。貴様の力はその程度か】

「あぁ、な」

【何?】

「ジャック。アサエモン。ベンケー。アステリオス。ファウスト。アタランテ。エルキドゥ。ギルガメッシュ。ナタ。カルナ。シャルロット。ハサン。そして、ソロモン。今回戦った転生者の中でも、俺は多分例外的に強い異能を持っててね。本気を出しちまうと、会場はもちろん、観客まで巻き込んじまうから、本気なんて出せなかったんだ。だから、地下ここに来た」

【では、ここからが本当の勝負だと? 今まで本気ではなかったと?】

「そう言ってんだろ。耳が遠いなら目じゃなくて耳を増やしな」

【貴様……!】

 そう。賭けだった。

 より高いところからより速く叩き落せば、より強い衝撃を与えることが出来る。

 それが他者を巻き込まない事を条件とした場合の最大火力。

 だが、もう遠慮する事はない。地下は元より、異能者が全力を出しても倒壊しない設計。本気を出しても壊れる事は――ないとは言い切れないが。

「壊れても……文句を言うなよ、運営!」

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