ソロモンvsアイザック・ニュートン

ソロモンvsアイザック・ニュートン

 試合開始のコールを待つまでもなく、臨戦態勢万全。

 オーラとでも呼ぶべきか、霊圧とでも呼ぶべきか、常人には見えない力が二人の間で衝突して、渦巻いて、拮抗して、二人の周囲が震動していた。

『第七試合! チームヴィクトリア対チームルーザー! ソロモン、対、アイザック・ニュートン! ……開戦ファイッ――!!!』

「“叡智王之魔導書ソロモンズ・グリモワール”」

「“騎士力学サー・ニュートン”」

 互いの力が反発し合う。

 衝突し合う力と力の間に立っていた審判兼実況は吹き飛ばされ、骨身に刻まれた殺意が彼をその場からそそくさと離脱させた。

「どうしたの。本、開いただけ?」

「そちめはどうした。騎士の称号を曝け出しただけで、終わりか? しかしおかしいな。騎士は王に仕えるものだろう。我が使い魔のように」

 フラウロス。

 オセ。

 フォカロル。

 モラクス。

 異形の巨体が聳え立つ。

 悪魔と呼ぶべき禍々しい姿をした、人間ならざる者達に対して、ニュートンは慌てふためくでも狼狽えるでもなく、冷静に、強かに笑っていた。

「全く、しょうがないな。まずは子守りをしてあげよう」

 直後、三メートルを超える巨体が引き摺られる。

 大地を踏み締める巨体はズルズルと、ニュートンへと引き寄せられていた。

 未知の力に引っ張られ、抗い切れずに引き寄せられる怪物達は、ニュートンに近付くにつれて徐々に生じ始める反対方向からの力との間に挟まれ、見えない力によって押し潰された。

 四体もの異形がまやかしの如く消えて、跡形もなく消え去る。彼らが現れた痕跡は、押し潰された彼らが噴き出した黒い体液だけだった。

「……で? 使い魔ってのは何処?」

『しゅ、瞬殺!!! ソロモンの繰り出した悪魔達を、ニュートンの未知の力が押し潰したぁ!』

「未知の力? ……違う。単純。至極単純な力だ。引力と斥力。奴自身を中心として発生させた二つの力に挟まれて、悪魔達は潰されたのだ」

 わざとらしい、大袈裟な拍手。

 挑発する気に満ち満ちた拍手をしたニュートンは、悪魔じみた笑みを浮かべていた。

「未知を未知のままにしない。さすが智慧の王様。俺の能力なんて丸裸。こりゃあ敵わない――って、考えた時にはもう一つ考えるべきだったよね? お、う、さ、ま?」

 べぇあ、と舌を出したニュートンの言葉を受けて、ソロモンの指輪が一つ砕ける。

 たかが指輪の一つが砕けた程度の些事だったが、ソロモンの異能と魔法を知る者からすれば大事も大事。十の指に嵌めた十の指輪は、ソロモンに叡智を齎す宝具であると同時、彼が負傷する際に身代わりとして砕ける魔除けの役割をも担っていたのだから。

 だが今まで、その指輪が身代わりの役目を果たした事はない。今まで、

 今まで三度の戦いでも一度もなかった、ソロモン負傷の危機があった事に驚きを禁じ得なかった者達に、ニュートンはまた悪戯を成功させた子供の様に、天を仰いで笑う笑う。

「いやぁ! 良かったなぁ! もしも指輪をしてなかったら、今頃あんたの体は車に轢かれたリンゴみたいに体の中身ぶち撒けて死んでたよ! いやぁ、本当に良かったなぁ!」

 馬鹿にした笑い声。馬鹿にした笑い方。

 だが、事態は本当に馬鹿に出来ない。

 認めたら負けた気分になるし、そもそも認め難い事態故に認めたくないのだが、認めざるを得ない――いや、認めなければならない。

 アイザック・ニュートン。

 彼は今まで誰も手が届かなかったソロモンの命に、届き得る可能性を持った人物だと。

「さぁて……指輪は九個。悪魔はあと六八体か。総がかりでもいいから掛かって来な。第一の生涯で辿り着けなかった叡智の一端。存分に堪能してやるからさ」

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