第六試合開始前
幕間 3
三対二。
ここに来て、まさかの展開。
チームルーザー、初めての勝ち越し。
今まで多くの戦いを繰り広げ、あらゆるチームを相手に喰らい付いて来たが、自分達より遥か格上の相手に勝ち越したのは初めての事であり、前代未聞の事態に誰しもが驚きを禁じ得ていなかった。
それはまた、当人らも然り。
「やった! やった! 勝ったぁ!
油断は、していまい。
ヴィクトルほどの男が、ここまでの戦いで油断などしているはずもない。
この戦いは、ヴィクトルも勝ちを取りに来ていたはずだ。無論、どの戦いも勝つための采配をしているのだろうが、この第五試合に関しては本気だったはずだ。
その試合で、自分達が勝った。
本気のヴィクトルという采配者から、一手取ったのだ。
「これ以上のエンターテインメントはねぇよなぁぁぁ!!!」
「
「ケッケッケッ! 面白くなって来たじゃあねぇか! 今度はこっちが突き放す側だ!」
南條が電話を取ると、ワンコールで応答が返って来た。
聞いただけで酒の臭いが鼻を突いて来そうな声で、返事が返って来る。
『どうした南條……』
「
『あぁわかった……わかったから大声を出さないでくれ……頭蓋に響く』
「任せたぞ!」
中国の暗殺者、
無敗のチームレジェンズ戦では、殺人鬼ジャック・ザ・リッパーと対峙し、激闘の末に圧勝を決めた強者だ。南條が持つ手札の中で、数少ない切り札的存在だった。
本当に、電話を取ったのが荊軻であれば。
「あぁ、あぁ、あぁあぁあぁ! 任されてしまいました任されてしまいました任されてしまいました! 次の対戦を任されてしまいましたわ!」
「おまえではなく、私がな。これがわかっていたから、私の部屋で張っていたのか……おまえの諜報能力は、本当に怖いくらいだよ、コルデー」
フランス、シャルロット・コルデー。
暗殺の天使の異名を取った暗殺者。
中国史上最初の皇帝を暗殺しようとした荊軻と比べると見劣りしてしまうが、彼女もまた、一つの歴史に改変を齎すべく暗殺という手段を選んだ、歴史改竄失敗者である。
ただし、荊軻とはとても似ても似つかない人格で。
「はぁ……南條様の熱い声。強き意思。あの方のためなら、
恍惚の表情で蕩けるコルデーは、短刀を抱きながら息を乱す。
震える手は南條のためならば、いつでもどこでも誰でも汚れられる。そんな彼女と自分が同じ暗殺者としてカテゴライズされているのは、荊軻としては複雑な気分だった。
まぁ南條がチームに引き入れるだけあって、彼女が強い事は否定しないが。
と、荊軻の携帯端末にメールが送られて来た。対戦相手がわかったらしい。豪く早い。
「……これは。私が出ないのは幸運か不運か……さて、南條はどう考える」
チームヴィクトリア陣営。
ヴィクトルの姿は監督室になく、とある男が鎮座する大部屋にあった。
チームの代表にして監督という強い姿はもうその背にはなく、敗北に怯える弱気男の背中が細かく震えているだけだった。
そんな男の縮こまった体を見て、鎮座する転生者は滑稽だと言わんばかりに笑う。
「ギルガメッシュ。カルナ。強き戦士を喪って憔悴するのはわかるが、そこまで小さくならずともよかろうが。結局はおまえもチームレジェンズの小娘と同じ、虎の威を借りる狐だったという話よな」
言われたい放題だが、構わない。
勝てれば、勝てさえすれば何の文句も無いのだから。
「可哀想に。そんなにも小さく縮こまって……それとも、余が采配してやったというに、まだ不安だと言うのか? ヴィクトル」
「そ、そんな事はない……ただ、あの男まで喪っては、もう……」
「不安なのではないか。安心しろ、というのも、今のおまえには難しいのだろう。だが敢えて言う。安心しろ、ヴィクトル。余の占いと知識の前に、全ての戦術は白日の下。例えそれらが、人心によって搔き乱されていようとも、だ。故に余は、ソロモンなのだ」
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