第五試合 カルナvs哪吒
カルナvs哪吒
「思う存分、燃え上がろうぜぇぇぇっ!!!」
左に哪、右に吒の二文字が光り、六つの得物が光輝を放ちながら浮かび上がった。元より持っていた
紫色の炎と煙を吐く火尖鎗を振り回し、間髪入れずに攻め立てる哪吒に対して、カルナは涼しい顔で的確に腕を繰り出し、無敵の鎧で防御し続ける。
本来ならば触れた瞬間に燃えてしまうが、哪吒の得物は神々と戦える力を持った神器。鎧に触れて燃えるどころか、自ら燃え上がって鎧を砕かんと何度もぶつかった。
力尽くでの突破を試みる哪吒の攻撃が、烈火の如く攻め続ける。
太陽の子にしてインドの大英雄、カルナが防戦一方の展開に観客は驚きを禁じ得ない。
いつもならそのまま攻撃を振り払って自慢の炎で焼き殺す一方的展開になると言うのに、カルナが全く攻撃に転じられない。不死身の鎧を駆使して、ひたすら防御に徹している。
無論、未だ傷の一つも付けられていないが、問題はそこではない。一瞬でも攻撃に転じようとすれば傷付けられるかもしれないとカルナが判断し、防御に徹底している事が問題だった。
わかっているのかいないのか、ひたすらに攻め続ける哪吒は唇を舐め啜り、火尖鎗と浮かんでいた神器の一つとを入れ替えた。
文字通り、妖を斬る剣、斬妖剣。
「
カルナが回避し、空振りに終わった斬撃が熱砂を焼き斬る。
斬撃が通った後は溶岩が流れたように真っ赤に溶けて、より熱い蒸気を発する中、哪吒は止まる事無く攻め立てた。
防がれようが、躱されようが関係ない。攻撃の体勢を一切解く事なく攻め続け、カルナに攻撃を許さない。
『一切止まらぬ猛襲! 一秒たりとも止まる事なく攻め続ける哪吒を相手に、カルナはガードを崩さない! 全ての攻撃を防ぐ! 弾く! 躱すぅ!』
「カルナ! 何を防御に徹している!? そんな奴、さっさとヤってしまえ!!!」
カルナを応援するのは、かつて彼と死闘を繰り広げた因縁の異母兄弟達。
長男ユディシュティラ。次男ビーマ。四男ナクラ。五男サハデーヴァ。そして、カルナと最も因縁深く、彼の好敵手として語られる三男、アルジュナ。
声を上げる五男サハデーヴァの頭を、長男ユディシュティラが鷲掴む。
「落ち着け。カルナの事だ。防御に徹しながらも、確実に攻撃が決まる瞬間を見極めているに違いない」
「ユディ兄者の言う通りだ。このナクラ様とやり合った時もそうだった。なぁビーマ」
「ふ……奴は俺達五兄弟のうち、四人を殺し得た男。今に見ていろサハデーヴァ。我らが宿敵にして我らが兄者は、すぐさま勝ち筋を見つけ出すだろう。なぁ、アルジュナ」
兄弟の中で一人、客席に座って静観するアルジュナは、はいともいいえとも返さなかった。
いいえとは言わない。だが、そうだと断言も出来ない。
作戦にしろ強いられているにしろ、カルナが防戦一方という展開はアルジュナ自身も信じられず、カルナと戦う哪吒という男の実力の底が見えない今、絶対そうだとも絶対にないとも断言出来ない状況にあった。
そんな中、アルジュナの思考を阻害するような騒がしさで、哪吒の笑い声が響き渡る。
「かぁっ、かっかっかっかっ!!!」
“
唐竹からの逆風。上から下、下から上へと走る斬撃が熱砂を巻き上げ、カルナへとぶつける。
ガードのわずかな隙間から入った砂がカルナの目に飛び込み、カルナのガードを緩ませ、更に剣撃を囮にして反対側から繰り出した蹴りが遂に、カルナの体にヒットした。
『ヒット! 遂に哪吒の攻撃が、カルナにヒット!!!』
いや、哪吒自身は当たっただけで、攻撃が通ったとは思わなかった。
何せカルナを守るのは、不死身の加護を与えし黄金の鎧。ギリギリもギリギリで入った蹴りの一発が、カルナに響くとは到底思えない。
故に、ようやく揺らいだこのチャンスを生かす。
手に取ったのは縛妖索。得物の先から伸びる糸が揺らいだカルナを追い掛け、繰り出されたガードを縛って拘束。
今までの猛攻からこれも攻撃の一種だと考えてしまったカルナの誤認が、蹴りが入った一瞬から最大のチャンスたる今へと繋がる。
降妖杵にて自ら殺した龍の力を我が身に降ろし、取り出したる砍妖刀にて斬り掛かる。
「“
同時、カルナが拳を握り締める。
自らを燃え上がらせて糸を焼き斬り、黄金に輝ける炎を纏った右手で拳を作って構えた。
燃え滾る金色の煌炎。握り締めた右拳に宿る神々しき光を、カルナに敗北した五兄弟の四人は戦慄しながら見ていた。
「間違いない、あれだ……!」
「アルジュナ兄者!」
「……あぁ。私と同じ、奴にしか扱えぬ神の御業」
曰く――“
二つの技が衝突。砂が巻き上げられ、観客席の人達は立ち上がり、急ぎ砂を振り払う。
衝突の余波が落ち着きを取り戻し、会場を満たす熱砂が戦場に再び舞い戻って来た時、この衝突の勝敗が決した結果が、衆目に晒される。
『た、大破! 大破ぁっ! 哪吒の右腕が、刀と共に跡形もなく消滅! 哪吒の右肩から噴き出す血が熱砂に落ちて、蒸発していく!!!』
対して、カルナは軽傷。鎧で覆われていない顔に、一筋の切り傷が付いた程度だ。
哪吒の右腕を粉砕した右拳を濡らす血が、黄金の炎で蒸発していく。
「脆い体だ。
涼しい顔で、辛辣な評価。
だが哪吒はそれに対してニタァ、と笑い、深く息を吸い込むと、全身で力み始めた。
すると驚愕。千切り落とされた哪吒の右腕が蜥蜴の尻尾が如く生えて来て、背後に浮遊していた火尖鎗を握り取ってみせたのだから。
『生えたぁ! 千切れたと思えば今度は生えた! 神に作られた肉体を持つ哪吒! 一体どんな体の構造してんだぁ?!!』
「俺は物語によっちゃあ、三面六臂で通ってんのよ。三面六臂、つまりは腕が六本あるって訳だ。だが今は二本……わかんだろ? 俺は、あと腕が四本残ってる。つまりその分……俺はまだまだ、暴れられるぜ!?」
後れて、カルナの鎧に亀裂が生じる。
右拳を受けて尚届いていた斬撃がカルナの黄金に亀裂を入れ、鎧の一部を剥がしていたのだった。
そこを指差した哪吒はまた、高々と笑う。
「かぁっ、かっかっかっかっ、呵々大笑!!! 今のが西の神の奥義か! 俺の体を壊すたぁ大した威力だが! そう簡単にゃあ終わらせねぇよ! だからもっと楽しもうぜ! 笑おうぜ! 笑い合いながら殺し合おうぜ!」
紫色の炎と煙が色を変え、黒を混ぜた赤い炎と煙を吹いた火尖鎗が、龍の咆哮が如く吠えた。
観客席の皆が耳を塞ぐ中で、アルジュナは初めて表情を考えて驚いていた。
「カルナの奥義を受けて、笑っている……?」
猟奇的にして狂気的。
地獄の悪魔さえ悪寒を走らせ、龍の王さえ戦慄した笑い声は、龍の咆哮より響き、轟き、皆の背筋に染みついて、全員の寒気と悪寒を誘う。
「上げてこうぜ、英雄カルナ! 気力も火力も全部、全部! 全部を賭して燃え上がろうぜぇぇぇっ!!!」
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