第五試合
チームヴィクトリア対チームルーザー 5
平地。迷宮。浮遊する瓦礫。水上、と来た第五試合の戦場は、熱砂。
踏んだ素足が焼け焦げるような灼熱地獄。
観客席の一階席に座る人達でさえ、熱気に充てられて汗が止まらない中、戦士達は戦わなければならないという。
『さぁ! 遂に来たぞ第五試合! まさかの二対二のイーブン! 再び追いすがって来た敗者を、チームヴィクトリアが
チームヴィクトリア側入場ゲートが、眩い光に満たされる。
照明でも背負って来たのかと思われる光を放っているのは、体を覆う黄金の鎧と耳飾り。背中では黄金の鎧に負けじと輝きを放ちながら燃える炎が燃えて、彼の歩んだ痕跡を残す。
『曰く、生まれ出でた時より最強! 何人にも傷付けられぬ耳飾りと、鎧を身に着けて生まれた英雄の中の英雄! それらを奪われても尚、師より授かった槍で以て戦い、死を受け入れた太陽の子! 曰く! 施しの英雄! 曰く! 不死身を切り離した男! 彼の敵はただ一人! 神の無慈悲にさえ従う潔さ! ――カルナァァァッッッ!!!』
有名なインド叙事詩にも描かれる大英雄。
太陽神スーリヤと王妃クンティーとの間に生まれた半神半人。
唯一彼を倒せたのは、最期に彼と対峙した異母兄弟――と見せかけて、実は物語の都合上だったのではないか、等と語られる。
チームヴィクトリアに勝利を齎す施しの英雄、カルナ。
「結局、私を出すのか……」
チームヴィクトリアの監督室の方へと視線をやる。
ヴィクトルの抱えるプレッシャーと高まり続ける士気とを感じ取ったカルナは静かに吐息し、黄金の鎧を纏った両手をぶつけてみせた。
やる気はないが、戦意を見せる。見せ付けるだけの軽い威圧でも、敵を怯えさせるには充分だった。これまでもこうして、敵を怯えさせて来たのだから――
「ハッハッハァ! 来た来た来た来た! 来たぁ!!!」
怯えているとはとても思えない声音。
太陽のような優しい温もりを黄金の光輝に変えて放ちながら登場して来たカルナとは対照的に、人を焼く事ばかりを考えた暴力的な炎が入場ゲートから噴き出て来て、その主は呵々大笑しながら闊歩して来た。
「来たぜ来たぜ来たぜ! 遂に、俺の出番だぁ!!!」
『熱っ! あつつっ! た、たた、対して! チームルーザーの戦士はこいつ! 曰く! 生まれた時より殺される
燃え上がる。燃え上がる。燃え上がる。
復讐の劫火を解き放ち、恩讐の豪炎を燃え上がらせて、彼は悪魔のような笑みを湛えてカルナと対峙し、中指を立てた。
『
中国三大宗教の一つに語られる護法神。
中国でも有名な物語、西遊記や封神演義にて、武神である毘沙門天の三男として登場する。
その顔に憤怒と笑いの両方を持ち、生後五日で七日間もの戦いの末、九頭の龍と龍の王さえ殺してしまった暴れん坊。
天地を脅かす戦いの権化、哪吒。降臨。
「よう! おまえ、西の英雄なんだって? 太陽の子、施しの英雄、何だって? かかっ! かっかっかっかっ、呵々大笑!!! それなら俺も施してやったぜ? ババァには俺の肉を。ジジィには俺の骨を。俺が盛大に自決した時になぁ!」
乾いた戦場で、乾ききった空気の中、哪吒の笑い声が盛大に響き渡る。
チームルーザーの監督室で、
チームルーザーの面々は、褒められる人間がそもそも少ないものだが、哪吒は別格だ。彼以上に失礼で、傲岸不遜の四文字を体現したような人間を知らない。
今回の戦いが決まった際でさえ、よくぞ俺を選ばないでいられたなと笑っていた彼が、負けていじける姿なんて、少なくとも安心院には想像出来なかった。
『さ、さぁ! 両者、揃いました! 転生者大戦! チームヴィクトリア対チームルーザー! カルナ、対、哪吒! 神より生まれた男と、神の温情を受けた男! 炎対炎! いざ尋常に……
「……!!!」
『
開戦の合図とほぼ同時。
超ギリギリのスタートで、哪吒が思い切り跳び上がり、カルナ目掛けて槍を振り下ろした。
両手の籠手で受け止めたカルナの涼し気な表情に対し、哪吒は逸話通り、憤怒と悦楽を二つとも内包したような顔で炎を吐きながら笑っていた。
『な、哪吒の先制!!! だがカルナもガッチリガード! 危うくフライングと言ったタイミングで飛び出した哪吒の槍が、燃え上がる!』
「かっかっかっかっ! さぁ、楽しもうぞ!!! 思う存分、燃え上がろうぜぇぇぇっ!!!」
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