第四試合 ギルガメッシュvsエルキドゥ

ギルガメッシュvsエルキドゥ

 古代メソポタミア最古の英雄譚、ギルガメッシュ叙事詩。

 神話、架空の物語が跋扈する当時で、人間が主人公となった最古の英雄譚の主人公。初めて歴史に残された実在する人間、それがギルガメッシュという王だった。

 故に彼はこう呼ばれる。

 人類で初めて、神々と袂を分かった人間だと。

「よもやよもやだ。おまえが転生している可能性は見ていたが、何処のチームに所属しているかは見えなんだ。まさか、このような弱小を装ったチームに所属していようとは」

「僕の世界の通貨が通じなくて、困ってるところを助けて貰ってね。その後も色々と面倒を見て貰った手前、監督には恩がある。だから……手加減はしてあげないよ、ギル」

「手加減? よもや、手加減などして俺を倒せるなどと思ってはないだろうな! エル!」

 ギルガメッシュが纏うのは、彼にフラれた女神がけしかけた牡牛と対峙した時に纏った、合計三〇〇キロにもなる黄金の鎧。

 肩に担ぐのは二一〇キロの戦斧。腰から抜くのは二一二キロの長剣と、重量と大きさが比例しない金色の礼装を武装し、エルキドゥ目掛けて肉薄。

 高々と振り上げた戦斧の一撃で、激しい水飛沫を上げる。

 後ろに飛び退いたエルキドゥは広げた距離を一気に詰め、肉薄。水飛沫を切り裂き、喉に向けて繰り出した手刀が剣に阻まれる。

 衝撃の余波が周囲に広がり、足元の水が一時的に押し退けられた。

 手刀を剣で逸らし、滑らせたギルガメッシュの足刀と、応じたエルキドゥの足刀がぶつかって、再び高々と水飛沫が上がる。

 戦斧による横薙ぎと高速で繰り出された手刀による一閃とがぶつかり、二人を囲う水飛沫を両断する。

 開始数秒で舞い上がり、弾け、広がり、爆散する水飛沫の連続に、観客席からは悲鳴が上がる。水族館でやるイルカのショーとは比較にならない。

『ぎ、ギルガメッシュとエルキドゥ! 初っ端から激しいぶつかり合い! 二〇〇キロ以上の黄金の武器を振り回すギルガメッシュもすげぇが、それと手刀足刀で張り合うエルキドゥもすげぇ! 最早この凄さを表現する言葉が見つからねぇぜぇ!』

「相変わらず、賢者と呼ばれる割に力尽くだねギル。でも安心したよ。実に君らしくて……!」

 水飛沫が上がる。

 だがそれは今までのような攻撃の余波によるものではなくて、エルキドゥが操っていたものだった。高圧で圧縮された水が刃となって、水飛沫の中からギルガメッシュを狙って伸びる。

 ギルガメッシュは剣の一撃で全てを叩き落すと、戦斧を力強く振り下ろして水の膜を作り、自信とエルキドゥを視覚的に遮断。その隙に高々と跳躍し、エルキドゥの上を取る。

「“断魂シャマシュ”!!!」

 影で上を取られている事を察したエルキドゥは、両手を組んで岩盤の防壁を展開。繰り出された斬撃を受け止めるが、追撃で繰り出された直接の斬撃に割り砕かれる。

 が、岩盤は囮。岩盤の中にいたと思われたエルキドゥは空高く跳び上がり、今度は自分がギルガメッシュの上を取っていた。

 風で加速、回転を加えられた火炎弾が、指先から放たれる。

 が、ギルガメッシュの黄金の籠手に阻まれ、反撃で繰り出された剣による斬撃がエルキドゥのすぐ側を通り過ぎた。

 着地したエルキドゥは周囲に水飛沫を上げ、水の幕を上げて出方を窺う。

 何処から攻撃が来てもすぐさま対応出来る位置。だが思惑は筒抜けの様で、ギルガメッシュは敢えて攻撃の手を止めた。

 水の幕を間に、互いに互いの様子見をしながら、次の一手を考えている段階。

 だがそれ以上に、二人は昂っていた。これ以上なく冷静に昂っていた。

 どんな異世界に転生したのか知らないが、愛も変わらぬ相手の様子に安堵さえしていたが、これは勝負だ。勝ち負けが懸かっている以上、勝利以外に目指すものはない。

 ならばどうやって勝ち筋を探るか。

「とはいっても、ギルは小細工なんてしないだろうな……」

 ギルガメッシュの性格はよくわかってる。

 森の番人フンババと戦った時も、女神の嗾けた怪物グガランナと戦った時も、彼は一切の小細工をせず、自分の力を信じ、真っ直ぐに突っ込んでいくタイプだった。

 そんな彼を、何度手助けしてやった事か。

 だから自然と、自分の手は搦め手が多くなった。そしてギルガメッシュは、そう言った面倒な敵を相手にするのが得意になっていった。

 馬鹿正直に力で勝負したら、確実に押し負ける。だからと言って搦め手に頼って翻弄しようとしても力で押し切られる。

 ならばどうするか――

「仕方ない……南條なんじょう監督には早過ぎると怒られそうだけど、相手が相手だ。

 水の幕が落ち、互いの姿が曝け出される。

 すぐさま突撃しようとしたギルガメッシュだったが、エルキドゥが何かしようとしているのを見て突撃をやめた。

 そしてエルキドゥは高々と掲げた右手を胸に押し込み。

「変身――!」

 青い髪がフワリと浮かぶ。

 体付きが若干丸みを帯びて、スーツに近しい意匠が姿を変えて、花嫁のドレスの様な形に変わると、胸元に青と白の花が咲いた。左側頭部にも、水色の花が咲く。

「水と風の精、エンキ」

 会場が沸く。

 元々中性的な印象が強かったが、変身した事で絶世の美女となり、更にドレスの際どい意匠が男の下心をくすぐったのと同時、少年達の戦隊ヒーローや仮面ライダーを思わせるの二文字が、会場を熱気で包んでいた。

『な、なんだ?! 何が起こった?! 元が男だったのか女だったのかわからねぇが、今は間違いなく女! 女になったが?! これで一体どうなる、エルキドゥ!!!』

「確かに……生前は見せなかった姿だ。その姿で、どうなるエル」

「そんなの……決まってるでしょう? ギル」

 次の瞬間、エルキドゥの姿が消えた。

 すぐ側に現れた彼女に反応してギルガメッシュは剣を振ったが、手応えがなければ彼女の姿も無い。振り返ると、振り払った剣の上にエルキドゥが乗っていて、次の瞬間、剣から腕を伝って走って来たエルキドゥの回し蹴りが、ギルガメッシュを蹴り飛ばした。

 戦場中央に叩き付けられた三〇〇キロ強の黄金が、巨大な水飛沫を打ち上げた。

 宙を折り返して目の前に落ちて来た剣を足蹴に、エルキドゥは朋友を誘う。

「さぁ、来なよギル。君が不死の霊薬を探して旅をしていた頃、私が何をしていたか。その体に教えてあげるよ」

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