第四試合
チームヴィクトリアvsチームルーザー 4
一対二。
イーブンに持って行けたと思えば、また突き放される。
さすが絶対的勝者。神々の加護を受けし者達が集うチーム。だが――
「
「うん……でも、辛いなぁ……人が、死ぬのは」
「……だが、それが転生者大戦だ」
「……次はどうするの。
「
南條が叫ぶと、大欠伸しながら荊軻が入室。
開けた服にグシャグシャの髪と、今の今まで寝ていましたという格好に、
「どうした南條……ってか、第三試合終わってたのか」
「あぁ、俺達の負けだ」
「死んだのか、あの神秘否定学者……てっきり意地でも勝つと思っていたのだが、期待外れだったな」
「荊軻、そんな事……!」
「負け犬が何を言っても負けだ。わかってるだろ、安心院」
わかってはいる。
今日ここに来るまでだって、ずっと辛い毎日を過ごして来た。ずっと敗北に煽られて、ブーイングされて、バカにされ続けて来た。
だが、ファウストを馬鹿にされていい心地はしなかった。
負け犬だから何を言われても反論出来ない理屈はわかるが、素直に受け入れたくはなかったのだ。
「まぁいい。荊軻、あいつは何処にいる」
「あいつとは……どいつだ」
「そりゃあおめぇ、あいつだよ。おまえと同じ、うちの最終兵器だ」
一方、チームヴィクトリアのヴィクトルは、席でだらしなく仰け反って座っていた。
天井を見上げて深呼吸する今のヴィクトルに、生きた心地など微塵もない。
だが次を決めねばなるまい。
次を決めるのが、今の自分の役割だ。
「剣対剣。力対力。そして、速度対速度……次はどう来る。私なら……異能だ」
コールボタンを押すと、一度で応答してくれた。
彼の事だ。第一試合の開始前から、ずっとスタンバイしていたに違いない。彼を出さぬまま終わればいいと思っていたが、正直に言って、相手を軽んじていた。
「俺だ。連絡を寄越したと言う事は――」
『あぁ、君の出番だ。カルナ』
カルナ。
インド叙事詩、マハーバーラタに描かれる大英雄。曰く、太陽神の子。
「用件はわかった」
『では、よろしく頼む』
連絡が切れる。
カルナは弓を番え、部屋を出ようとしたが、部屋の扉を開けると目の前に男が立っていた。
カルナの耳飾りと鎧に負けず劣らぬ黄金の鎧と装飾を身に着け、黄金の剣を腰に差し、背中に黄金の戦斧と弓とを携えていた。
先の変貌を遂げたアタランテよりも神々しく、煌びやかな金色の双眸が更に光っている。
「連絡が来たな? 連絡が来ただろう。なぁ、カルナ!」
「……何を見た」
第四試合の戦場は、浅い水辺だった。
中央と東西南北の四か所から水が噴き出しており、一定の水量をキープしている。
『さぁ! 第四試合は水の戦場! 第三試合、ギリギリの攻防を制したチームヴィクトリアが更なる差を付けるのか! それとも再度、チームルーザーが食い下がるのか! 圧倒的敗者のチームより、この水の戦場に送り込まれた刺客は……こいつだぁ!』
入場ゲートの左右で水飛沫が上がり、第四試合に出る選手を迎える。
一瞬、花嫁を思わせるほどの美しい純白の衣服で身を包んだ中性的な男が、結んでいた髪を解いて、水にも負けない透明感のある青い髪を広げてみせた。
自分達が負けている事など感じさせない笑顔で、颯爽と入場してみせる。
『傍若無人の王がいる。神々と袂を分かとうとする王がいる! 神々の激昂に触れし王に、神は兵器を差し向けた! しかし、偶然出会った娼婦と交わる事、六日七晩! 人の心を知った兵器は人として王と対峙し、唯一無二の友へと堕ちた! 神々によって作られ、神々によって壊され、神々によって翻弄される宿命を背負った、神々の失敗作! ――エルキドゥゥゥゥッッッ!!!』
「娼婦と交わったとか、恥ずかしいな」
観客席から黄色い声援が飛び交う。
今までのチームルーザーの面々からは絶対に出て来ないと思われた美形の登場に、女子のハートは掴まれた。
また、男らしくも女のようにも見える中性的な顔立ちが、男達の下心をくすぐっていく。
名をエルキドゥ。
人間ならざる土塊の兵器。水の智慧と神の名を持つ神ならざる者。
最後には神によって破壊されたとはいえ、彼を敗者と呼んでいいものか。彼の生涯を知る者達は首を捻る。
『そして! 対するチームヴィクトリアからは――』
と、選手入場が始まるより前に、紹介の端末が鳴った。
連絡を取った男は最初声を潜めていたが、次に大声をマイクに響かせ、観客席の全員に耳を塞がせると、何とか平静を取り戻して額に溜まった汗を拭い取った。
『えぇぇ……大変失礼を致しました。チームルーザー、エルキドゥを迎えるべくチームヴィクトリアから解き放たれた刺客……基、強敵は、こいつだぁ!』
水が左右に割れる。
持ち上がった水の壁に両手を突っ込み、水を斬った黄金は、高々と笑い声を響かせた。
『祖先の英雄! その名で呼ばれし唯一の男! 世界全ての宝物を蔵に入れた生粋のコレクターにして、万物を見通す目と、全ての英知を物にした、古代最強にして最高の王! 誰もが抗えない死という概念にさえ立ち向かい、神の送った災害とさえ戦い抜いた! 全ての英雄の始祖! ――ギルガメェェェッッッシュ!!!』
「何だと?!!」
ヴィクトルは立ち上がる。
珈琲のカップは倒れ、中身は全て零れて机の上に広がっていく。
食いしばる歯から力を抜けず、そのまま歯を噛み砕きそうな勢いのヴィクトルは、すぐさまカルナへと連絡した。
「カルナ! どういう事だ!? 何故ギルガメッシュが出ている!」
『何故も何も、監督からの連絡をあの男は予知していた。あの男に詰め寄られれば、断る術を知らん。何より……俺は、施しの英雄だ』
水の壁が倒れ、ギルガメッシュの後ろで波打つ。
弾ける水飛沫に濡れる両者は互いを見つめ、笑い、昂っていた。
「まさか、君が出て来るとはね。それにこの白い衣装……監督が用意してくれたんだけど、君が来る事を予感していた訳だ」
「俺はずっと待っていたぞ。この時を……何処のどいつに唆されて出て来るのかと、指折り数えて待っていた! さぁ、始めるぞ! いつぞやの夜の続きをしようではないか!!!」
『これぞまさに因縁の対決! 同じ時代、同じ国で、同じ戦いを繰り広げた友と友の戦い! 転生者大戦、チームヴィクトリア対チームルーザー! 第四試合! ギルガメッシュ、対、エルキドゥ! ……
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