第三試合

チームヴィクトリアvsチームルーザー 3

 第一、第二試合を終えて同点という途中経過も含めて、会場の熱気は未だに収まらない。

 試合の途中で抜け出す事のないようにと、女性、男性問わず化粧室は大渋滞。

 食べ物やドリンクを売るコーナーは、翌日、更に次の日の分まで補充を余儀なくされる。

 絶対強者が見せる強さと、圧倒的敗者の見せる意地とのぶつかり合いは、それほどまでに人々を魅了し、湧かせ、滾らせていた。

 だが双方の監督に、彼らの期待に応えたいなんて気持ちはない。

 目指すは勝利、ただ一つ。

『さぁ! 第三試合の会場も準備万端整いました! 待ちに待った第三試合! 野郎ども、準備はいいかぁ?!!』

 観客席から返って来る返事は、等しく是、Yes、OK。

 言葉の国境こそあれど、言葉に含まれた意味は国境を超える事はない。

 異なる時代、異なる世界、異なる国同士の者達がぶつかり合う。転生者大戦というエンターテインメントの醍醐味の一つである。

『第二試合、世にも恐ろしい事が起こった……チームヴィクトリア、まさかの敗北! 土を付けられた伝説の逆襲が、今始まろうとしている……!』

 会場中央が円形に割れ、亀裂が生じる。

 砕けた会場がゆっくりと、ゆっくりと浮上して、観客席より内側全体に広がる瓦礫があちこちに浮遊し始めた。

 浮遊する足場が固定されると同時のタイミングで、彼女は悠々と闊歩して来る。

『人類最強! その称号を持つ者を問われて、様々な名前が浮かぶだろう! では皆に問う! 人類最速は誰か! 己を伝説と歌ったウサイン・ボルトか?! 否! 否! 否! 彼女は、その伝説をも凌駕する! その足の速さと誰にも屈さぬ強さから、相手に不正を強いた絶対王者! 輝ける者ポイボスの異名さえ取った、史上最速にして、最強の女狩人! ――アタランテェェェッッッ!!!』

 人類最速、最強の女。

 霊長類最強と呼ばれた女性さえ置き去りにする速度で以て、あらゆる獲物を仕留めて来た狩人、アタランテが入場して来た。

 スポットライトを浴びて、赫と蒼の異色双眸ヘテロクロミアが光る。

「あ……あ……あ……アタランテぇぇぇ?!」

「ケッケッケッ、考える事は同じか。なら猶更、ぶっ潰してやらなきゃあな」

『そして、第二試合で雪辱を晴らしたチームルーザーが次に送り込む刺客――基、世界最速の女狩人、アタランテに相対するのは、こいつだぁ!!!』

 入場ゲートから響き渡る音。

 バイクのエンジンだと気付いた次の瞬間には、千CCの大型二輪がトラックを周る様に走り始めた。バイクを運転する男は片手を掲げ、声援を掻き集める。

『発明王、エジソンは言った! 成功のカギは一パーセントの閃きと、九九パーセントの努力であると! 天才、アインシュタインは言った! 知識よりも、想像力こそ重要であると! しかし! 男は歴史上誰よりも知識を欲し、努力する事なく智慧を欲した結果、悪魔に命を捧げるに至る! ならば見せてくれ、おまえの知識! 悪魔に魂を売ってまで手に入れた、その叡智! 人類最大の叡智と引き換えに、爆発四散の未来さえ受け入れた馬鹿男フール!』

 バイクが戦場へ入る。

 華麗なドリフトを決めた男は颯爽とバイクから降り、ヘルメットを脱ぎ捨てた。

『――ヨハン・ゲオルク・ファウストォォォッッッ!!!』

 悪魔に魂を売った医学者。

 ドイツに語り継がれる伝説の参戦に、観客先は再び沸いた。

『神話に語り継がれる最強の女狩人と、伝説に語り継がれる最狂のサイコパス! 転生者大戦第三戦! チームヴィクトリア対チームルーザー! アタランテ対ファウスト! ――開戦ファイッ!!!』

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