第二試合終了

幕間

これこそ最高のエンターテインメントだThis is the best entertainment!!!」

 首を絞める南條なんじょうの腕をタップして、抜き出した安心院あんしんいんも喜んではいた。

 一勝一敗。

 勝率九割を誇るチーム相手に、まだ二戦とはいえイーブンとは重畳の結果。

 これまでのチームルーザーの戦績から見ても、最上の出来と言える。

 義経よしつねに支えられながら拳を高々と突き上げ、観客の声援に応える弁慶べんけいに対して手を振る安心院の隣で、南條はチームヴィクトリアの監督席を睨み、口角を歪ませていた。

「相変わらず、ほまえはやらしい笑い方をするのぉ……南條」

「てめぇほどじゃあねぇよ、荊軻けいか

 チームルーザー所属。歴史改竄失敗者、荊軻。

 勝率九割九分を誇るチームヴィクトリアの殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーを相手に快勝を勝ち取った、チームルーザーの最終兵器。

 今宵も戦いを肴に飲んでいたらしく、二戦目でもう酔っていた。

「ひっく……それで? ここまでの結果を、おまえは予想していたのか? うん?」

「ケッ! そりゃあ皮肉か? この俺の戦績予想的中率が、未だ百パーを下らねぇ事に対しての」

「そんなつもりはない。ただの好奇心だ」

「ケッ! 今んとこは、。だが! 予想通りに、予定通りに運ばれる試合ほど面白くねぇもんはねぇ! やるかやられるか! 最後の最後までわからねぇ、どっちに転ぶかのシーソーゲーム! だからこそ人は血沸き、心躍る! 俺もそれを体感してぇんだぁ……だから……次もその次も、次も次も次も次も勝ぁつ! 勝ちまくるんだよぉ!」

「では、次は誰を出す? 南條監督」

「次はもう決まってる。剣対剣。力対力。なら次にこっちが仕掛けるのは……だ」

 一方、チームヴィクトリアの監督ヴィクトルは地下にいた。

 転生者大戦が始まってから新たに作られた施設で、その用途はたった一つ。供養である。

 転生者の持つ骨さえ燃やす神の炎にて、敗者の死体を燃やす場所。ヴィクトルはそこに、久しく足を運ぶ事となってしまった。

 もうすぐここに、怪物と呼ばれた男、アステリオスが運ばれて来る事が信じられない。

 同時、アステリオスを倒した弁慶。そして彼を投入したチームルーザーの監督南條に対して、憤りにも近い感情を抱いていた。

 元よりやられる可能性もあった勝負だ。この結末は受け入れねばならない。

 だが久しく、腹の底から湧いて来る。このお門違いの苛立ちと憤り。受け入れるべき敗北を受け入れきれず、うまく消化し切れていない幼稚な思考回路。

 冷静にならなければならない事は、大人にならなければいけない事はわかっている。

 だが、理性だけでは収まらない。

 久方振り過ぎて、制御を誤ってしまいそうになる。

 いつ以来か。これほどまでに、勝利に対して餓えを感じたのは。

「随分興奮しているようだな、監督殿」

「……何故君がここにいるんだ。アタランテ」

 獅子の鬣を思わせるような金色の頭髪を伸ばし、細い両腕には見合わない青白と赤黒のゴツいガントレットを嵌めている女性。

 名を、アタランテ。

 曰く、世界最強の女狩人。

「何、同じギリシャの盟友がヤられたのだ。弔いくらいはしてやろうと思ってな」

「誰がどんな怪我をしようと動じなかった君が、弔い? らしくもないじゃないか」

「それはお互い様だろう。珍しく、勝利への渇望が湧いているのではないか? ヴィクトル。あの男……南條と言ったか。奴ほど勝利に餓えた人間を、私は当世で見た事がない。その熱に、とうとうおまえまで充てられたか」

「おまえ……まで?」

 アタランテはほくそ笑む。

 その次に出て来る言葉を予測したヴィクトルは、驚愕を禁じ得なかった。

 彼女までもが今の戦いに充てられたなどと、同郷とはいえ、当世に来るまで縁もなかっただろう怪物の仇を取るために、自分が出ると言うのだから。

「剣と剣。力と力。剛における分野で互角なら、次は技量の勝負と行こうではないか。世界最強にして、と謳われた狩人の実力。真の敗北者に見せ付けてやろう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る