アステリオスvs武蔵坊弁慶 決着

 曰く、アステリオスとは雷光を投げる者という意味であり、その由来は最高神ゼウスの別名から来ているという――本当に?

 王が生贄たる牡牛を捧げるはずだった海神。それはゼウスの兄、ポセイドンを指す。

 牡牛に対して恋慕を抱く呪いをポセイドンによって掛けられた王が、ポセイドンと縁も深いゼウスの別名を名として付けるだろうか。

 ならば、何故――答えは単純にして明快。怪物は雷光を投げるのだ。ただしその雷光が、雷電を纏った己自身を示すなど、誰にも予測出来なかっただろうが。

「何だ、あれは……」

 テセウスさえ見た事の無い、正真正銘の怪物の奥の手。

 命の危機に瀕した際、全ての力を籠めて繰り出す最終攻撃手段。それは言わずもがな、戦いの中で行なわれる御業である。

 テセウスは絶句し、困惑し、その場で唇を噛み締めた。

 反対に、弁慶を見る義経は笑っていた。

 テセウスが怪物の本気を引き出せていなかった事など知る由もなく、ただ純粋に、鬼若と呼ばれた男の戦いがこれで決着すると言う事に対しての高揚感から来る笑みである。

 勝てば誉れ。負けても誉れ。

 牛若丸などと呼ばれた小僧に負けた暴れん坊が、本物の怪物と渡り合えたのだから。

 だが――

「わかっているな? 弁慶!」

「もちろん……わかっています、とも」

『な、何だ?! 雷電を纏うアステリオスに対抗する様に、弁慶の右手が緑色に光る!』

 誰も知らないだろう話。

 現在の岩手県平泉町。衣川館ころもがわのたて

「弁慶……この先、誰も行かせるな」

!」

 敵軍に迫られ囲まれて、正妻と我が子と共に自害を決めた義経の、最期の命令。

 その褒美は、歴史に刻まれる事でもなければ、主のために命を使い尽くせる事でもなく――かの義経より、

「これは……! 義経様!」

「持って逝け。そして、あの世で誇って胸を張れ。貴様はこの牛若丸の刀を、取ってみせた男だと!」

 源義経が愛刀、薄緑うすみどり

 終ぞ、弁慶がそれを使う事はなかったが、死後、薄緑の魂は弁慶のそれと融合し、今、一つとなりて彼の力として輝きを放つ――!

「あ……はは……」

「この光を見て、尚笑えるか。その意気や良し! ならば……来ませぇぇぇいっっっ!!!」

 最後の激突。

 電光石火。雷電の速度で、アステリオスが迫る。

 それに合わせたカウンターを狙って、弁慶が構える。

 これが最後のぶつかり合い。ようやく出会えた好敵手。しかしもう、別れの時だ。

「ぶるるるぅあああぁぁぁっっっ!!!」

 “雷光を投げる者アステロペーテース”!!!

「うぉぉぉぁぁぁあああっっっ!!!」

 “不動仁王ふどうにおう千本目せんぼんめ薄緑うすみどり”!!!

 鈍重な衝突音が響き、二人を映していたドローンが大破。

 映像が映されなくなった直後、迷宮から巨大な影が幾つもの壁を破壊して迷宮から飛び出してくると、迷宮は崩壊。その場には、勝者だけが立っている。

 立ち込める戦塵が晴れ、その影が見えた時、観客は一斉に、爆発したかのように声を上げた。

『て、転生者大戦……チームヴィクトリア、対……チームルーザー、第二、試合……勝者は――』

 勝者の巨体が大きく揺らぐ。

 が、観客席から飛んで行った影が脇の下に入り、下から支えて倒さなかった。

「よくぞ、よくぞ我が言葉を護り抜いたな……

「義経様……」

『勝者は――弁けぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっっっ!!!』

 チームルーザー、まさかまさかの、二戦目にして早速の白星。

 カウンターを喰らって吹き飛んだ怪物の首は頭から外れ、殴られた顔が満足げに笑っていた。


 第二試合。勝者、チームルーザー。武蔵坊むさしぼう弁慶べんけい

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