第二試合 アステリオスvs武蔵坊弁慶

アステリオスvs武蔵坊弁慶

 チームヴィクトリアのアステリオス。

 彼の最初の一手――基、戦法はいつも同じだ。

 戦斧を地面に深々と突き立てたアステリオスは合掌。ゆっくりと開いた手の中にエネルギーを溜めて、一挙に解き放った。

 青い光は二人を囲い、二人を覆いながら中を作る。

 作られるのはかつて、彼を閉じ込めた無限迷宮ラビュリントス。テセウスが出て来るまで、誰も生きて帰って来る事なかった世界最高の迷宮である。

『アステリオス、早速無限迷宮ラビュリントスを展開! ここからは、委員会が用意しました観戦用ドローンにて観戦して頂きます! 会場にいらっしゃいます皆様は、会場の巨大モニターをご覧下さい!』

 武蔵坊弁慶とアステリオスは迷宮に閉じ込められ、完全に遮断された。

 弁慶は近くの壁を軽く手の甲で叩いてみるが、自分の武器では破壊出来ないと判断。

 定間隔で置かれた灯は仄暗く、視界はあまり鮮明でない。ミノタウロスの巨体を見逃す事はなかろうが、戦いにはかなり影響しそうだ。

 弁慶の得物はほとんどが長物。売って余るほどある武器の中で、狭い迷宮内部でまともに使えそうなのは半分もなかった。

 更にその中から、アステリオスの強靭な肉体に通じる物となると更に限られて来る。

「まさに無用の長物、などと、言ってる場合ではないか……」

『弁慶!!!』

 迷宮内部にいる弁慶は、飛んで来たドローンの映す映像を見て微笑を浮かべた。

 何せかの牛若丸うしわかまることかつての主、みなもとの義経よしつねが観客席の手すりの上に天狗下駄を履きながらも乗って、腕を組んで立ち尽くしており、彼の背後にも、彼を慕う源氏の者達が応援幕など作って声援を送っていたのだから。

『牡牛の怪物、何たるものぞ! 後世にまで語られたおまえの実力、見せ付けてやれ!!!』

「やれやれ、困った大将だ……」

 生き様より死に様の方が有名なのも、この状況が弁慶にとって不利に働いている事も、義経は分かった上で言っているのだろう。

 だからここで力を示せという鼓舞。全く、あの人らしいと弁慶は思う。

「では、早速参りましょうか」

 と言った次の瞬間、弁慶は取り出した薙刀の柄を膝で叩き折って、迷宮内部でも振り回せるよう長さを調節。折れた柄も持って進み始めた。

 灯りが暗いので、視覚にはあまり頼れない。だから弁慶は、別の方法で迷宮を進む。

 折った薙刀の柄を投げて、音の反響で周囲を探る。いわゆるエコーロケーション。蝙蝠やイルカが超音波を出してするだ。

 弁慶に特別そういった特殊能力がある訳ではないが、周囲を探る程度は出来る。それこそ、敵の奇襲を事前に察知するくらいの事は。

「――!」

 右方から投擲された戦斧を受け止め、払い除ける。

 猛進しながら振り上げ、雷霆と共に振り下ろした戦斧を弁慶は受け止め、薙刀を斜めに下ろして受け流すと、返しの一撃でアステリオスの体に斬撃を打ち込んだ。

 そこらの武器では傷付かないアステリオスの六つに割れた腹筋に、切り上げによる一閃が刻み込まれた。

『な、何と! まさかまさか! 先手を取ったのは迷宮の支配者であるアステリオスではなく、場所を察知した弁慶だぁぁぁ!』

 熱気を増す会場の中、手すりに乗る義経は誇らしげに笑う。

「雷光を投げる者よ。ただの雷光で倒せるほど、うちの坊主は甘くはないぞ。源義経が右腕にして、我が生きる盾。武蔵坊の力、とくと味わうがいい!」

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