第二試合

チームヴィクトリア対チームルーザー 2

 南條なんじょう利人りひとは机に足を落とす。

 隣の安心院あんしんいんはビクっと小動物並に驚き、体を竦めて怯えたが、南條は構わずビールを一気飲み。運ばれていくジャックの死体に対し、憤慨の意を以て睨みを利かせていた。

「ジャックの野郎……あんな子供じみた挑発に乗りやがって。わずかに残ってた勝機を、みすみす逃しやがった! あのバカが!」

 勝つか負けるかわからない、最後までギリギリのシーソーゲーム。それが南條の求めるエンターテイメント――戦いだ。

 最後に対峙していた構図は、ジャック・ド・モレ―からみて、決めれば一発逆転勝利。外せばそのまま負けという、南條の求める展開、だったのに。

 最後の最後、あからさまな挑発に負けて均衡を崩してしまった結果、敗北から逃れられなくなってしまった。

 作戦なんて考えられたものではない。嘲りさえなかったものの、最後まで軽んじられていた結果生まれた敗北は、南條が怒るのも当然の結末であった。

 結局最後の最後まで、朝右衛門あさえもんはジャックを敵ではなく、断罪すべき罪人として認めていたという事なのだから。

「安心院、次だ! 第二試合のメンバーを決める!」

「う、うん……でも、どうする? 向こうは神様と縁のある人達ばかり……うちはただでさえ、神様と縁のある転生者が少ないのに……ジャックは完封されるし……」

「なら次は、神様は神様でもゴッドじゃなく、ブッダの方で、相手してやろうじゃあねぇか」

 戦場修復完了。

 かれこれ二時間も掛かってしまったが、何とか修復出来た。曰く、転生者大戦管理委員会も、滅多にお目にかかれない壊れ具合だったそう。

 だが、委員会のプライドに懸けて修復を完遂。第二試合を開始出来る運びとなったのである。

『さぁ! 大変長らくお待たせいたしました! チームヴィクトリア対チームルーザー! 第二試合を開始致します!!!』

 待ちに待った第二試合が無事開始されるとなって、観客席は興奮を取り戻す。

 再び高まる熱気にビールは売れ、売れ子は客席を走り回り、はしゃぎ回る子供達は親にたしなめられる。

 そんな観客の期待を一身に受けて、双方の戦士が入場ゲート前に立った。

『まずはチームルーザー! 第一試合で黒星を付けられた屈辱を晴らし、チームヴィクトリアに土を付けるため、送り込まれた第二の刺客は……こいつだ!!!』

 入場ゲートから、天に昇るよう伸びる橋。

 天に弧を描いて落ちる橋の先端に付いた杭が戦場に突き刺さり、山形やまなりに盛り上がる橋となってかかった。

 その橋を、大男が闊歩してくる。

 筋肉隆々とした大柄な巨躯。その背と腰に差した厖大な数の武器が、彼の存在を示す。

『平安末期。五条大橋に若鬼もののふ現る! 帯刀の武者と戦うこと九九九勝! 九九九本の得物を集め、千本目にして運命の出会いを果たす! 知略と怪力を駆使し、己が生涯を尽くして主に仕え、最期には己が身を盾に立ったまま絶命! 曰く! 史上最強の木偶の棒!』

 橋を渡り終えた大男は、背中から薙刀を取り出す。

 頭上で振り回してから地面を石突で突くと、会場全体が跳ねるよう震動した。

武蔵坊むさしぼうべんけぇぇぇい!!!』

 チームルーザー、次鋒。武蔵坊弁慶、推参。

 神と縁深い相手に対して、神――仏を崇める僧侶をぶつける大胆さ。

 チームヴィクトリア監督、ヴィクトルは腹立たしそうに歯噛みした。思わず持っていた缶コーヒーの中身を全て飲み干し、足音を鳴らす自分達の次鋒に託すが如く。

「叩き潰せ」

『さぁ! 続いてはチームヴィクトリア! 山田やまだ朝右衛門あさえもんの鮮やかな勝利から、次に繋げるのは……こいつだ!!!』

 弁慶も充分な巨躯だったが、こちらは更なる巨体。

 歩く度に地面が揺れているかのように感じられる鈍重な跫音が、一歩、一歩と近付いて来る。

『ミノタウロス。その名を聞けば、誰もが思い浮かべよう。人の巨躯に牛の頭部を持ち、英雄テセウスによって討ち倒されるまで、無限迷宮ラビュリントスに封じられた怪力の怪物! 曰く、雷光を投げる者! 半神半人! 無辜の怪物! ――アステリオォォォス!!!』

 体長三メートル近い大きさの筋骨隆々とした巨体に、牛の顔を模した鉄仮面。

 両手には、長さの異なる巨大な戦斧を握った半裸の大男。アステリオスが吠える。

 名が示す意味の通りに雷光を投げるのか、戦斧には時折雷電が通い、空気を弾いて裂く音が聞こえていた。

『さぁ、両雄揃いました! チームヴィクトリア対チームルーザー! アステリオス、対、武蔵坊弁慶……開戦ファイッ!!!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る