山田朝右衛門吉睦vsジャック・ド・モレ― 決着

 間合いは五メートルもない。

 朝右衛門の機動力を駆使すれば、一瞬で詰められる距離だ。

 ジャックは自分に迫って来る朝右衛門を狙い撃ちする構え。振り下ろした斬撃が朝右衛門の脳天から股下まで一刀両断する光景を、繰り返しイメージする。

 ジャックが持ち上げた大剣は時間が経過する毎に更に膨張し、肥大化し、異形の巨剣と化して戦場上空を巨大な影で覆い隠した。

 漆黒の巨剣は悪魔の瘴気を放ち、雲一つなかった夜空を鉛色の雲で満たしていく。

 瘴気で片目が漆黒に染まり、真っ赤な虹彩が朝右衛門を睨んだ。

 対して、朝右衛門は両目を閉じ、深呼吸。

 力を膨れ上がらせるジャックに反し、左肩を塞いでいた布を取って気を溜める。

 左肩の傷口から流れる血が腕を伝って鞘へと繋がり、切った鯉口に滴って濡らしていく。

 鞘の中が血で濡れて、摩擦係数を軽減。更に速度を増した居合にて、ジャックの罪を断罪せんと狙っていた。

 天候さえ変えるジャックの禍々しい巨剣に対し、静かに気を溜める刀剣。

 相反する攻撃のスタイル。やはりこの二人は、とことん相容れない立ち位置にいる。

「最後だ……! 覚悟は、いいだろうなぁぁぁ!!!」

「……祇園精舎の鐘の声、諸行無常の、響きあり」

「あ?」

「沙羅双樹の花の色……盛者必衰の理を表す」

 平家物語第一巻、祇園精舎。

 平家とも源氏とも何ら縁のない彼女が、何故その言葉を紡ぐのかはわからない。が、言の葉はまるで詠唱のように彼女の気を高め、彼女の体の奥底へと蓄積させていく。

 無論、ジャックが平家物語など知るはずもなく、魔法でも繰り出して来るのかとただ身構えていたのだが、次の言葉は無視出来なかった。

「驕れる人も久しからず、ただ、春の夜の夢のごとし」

「は? 驕れる人も、何だって?」

「猛き者も遂には滅びぬ……ひとへに、風の前の、塵に同じ」

「言ってろぉぉぉっ!!!」

「あのバカ……」

 純粋に煽られたと思ったか、待っていればいいのに、わざわざ自分から仕掛けるジャックへと南條は舌打ちした。

 待ち構えてのカウンターならば、まだ勝ち目はあっただろうに。

「安心院」

「何?」

「第二試合、誰を出すか」

「え、まだ試合が――」

「もう終わる」

 “大罪犯シン悪魔之飢餓ディアブル・アッファミ”――!!!

 “神速しんそく罪過断絶つみほろぼし”――!

 地面を抉る最初の一歩で、ゼロから一挙に最高速まで加速。振り下ろされる巨剣の下を潜り抜け、懐へ跳び込んだ朝右衛門は斬撃を走らせ、ジャックの背後まで跳び越えた。

 全力で踏ん張っても止まり切れなかった朝右衛門の体が、向かいの壁ギリギリまで滑ってようやく止まる。

「これにて……断罪は終い。また別の世界に呼ばれましたなら、その呪詛を吐く悪癖を、直してください」

 ジャックの頭が斬れる。

 大きく開いた口から首に掛けて走った斬撃がジャックの頭を斬り落とし、同時に斬られた舌が落ちた。

 戦場を砕き割った右腕の重量に負けて、潰れる様に倒れ伏す。

『ち、チームヴィクトリア……対、チームルーザー……第一、試合……山田朝右衛門の一撃が、ジャック・ド・モレ―を仕留め……しょ、勝利ぃぃぃっ!!!』

 第一試合、決着。

 仕事を終えた処刑人は刀を収め、観客席に一瞥もくれずに入場ゲートへ戻っていく。

 断罪を終えた相手にもう興味など欠片ほどもなく、ジャックにさえ視線を配る事なく去って行った。


 第一試合。勝者、チームヴィクトリア。山田やまだ朝右衛門あさえもん吉睦よしむつ

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