第一試合 山田朝右衛門吉睦vsジャック・ド・モレー
山田朝右衛門吉睦vsジャック・ド・モレ―
女と男という性別の違いはあれど、二人の体系は同じ瘦身瘦躯。どちらも、力で押し切るというタイプではない。
が、単純に筋力で測るなら、言わずもがな、ジャックの方が有利に思える。
体の作りからして、体脂肪率の数値にも表れているように、男の方が筋肉の量は多い。同じ体系ともなれば、その差はさらに明瞭となるだろう。
ただしそれは、単純な力比べならばの話。
「山田朝右衛門……あれが我が側室の縁者という噂もある処刑人か。なるほど」
かつて日本を支配した男、
三英傑の一人としても数えられる日本屈指の戦国時代の武将は、自分の側室と縁がある者達との逸話もある山田朝右衛門の背中を見て納得していた。
なるほどただの剣客とはまるで異なる立ち姿。
遊び半分、覚悟半分で刀を握る者とは訳が違う。
筋肉と骨が密集する首は、一刀の下に両断する事が難しい。故に現実の斬首とは、コミックやアニメのように一撃では出来ず、多くの場合は何度も得物を振り下ろし、叩き斬るのがやっとであった。
故に、それを一刀両断でやってのける山田浅右衛門という名を持つ者達は、剣の達人である事には違いない。
それも戦国の時代が終わった後。脈々と受け継がれていったと言うのだから恐ろしい話だ。
「罪を斬る剣……儂らの時代にはなかった剣技、見せて貰おうぞ」
そんな家康の視線には気付いていまいが、吉睦は刀を抜いた。
滑る様に、ゆっくりと抜かれた刀は、真円を描きながら柔き両手に握られ、構えられる。
対してジャックは柄と刀身、巨大な
そうしてジャックが構えたのを見計らって、吉睦が先に仕掛ける。
上段からの唐竹を受け止め、繰り出された刺突を紙一重で回避。勢いそのまま側面へと回り込み、横薙ぎを仕掛けるが、またしても盾に阻まれた。盾をぶつけられそうになるが、辛うじて足を繰り出して足蹴にし、跳躍。距離を取る事で、体勢の立て直しに成功した。
『朝右衛門果敢に攻めるが! ジャック、悉く大盾で防ぐ! が、吉睦の華麗な身のこなしに、ジャックは若干遅れているかぁ?!』
「……その大剣。大盾。鎧に籠手。それだけの重しを身に着けて、よく動けるものです」
仏頂面ながら、吉睦は素直な感想を述べる。
それに対してのジャックの応答は、他でもない――嘲りであった。
「そりゃあ、ねぇ? 戦国時代だか何だか知らないけど、まともに戦場にすら出た事がない奴には、この程度が凄いんだぁぁぁ。へぇぇぇ」
周囲は察した。
こいつは財を没収されて然るべきだと。
きっと王様相手にも無礼を働いて、異端の称号を付けられたんだろうと。
「俺ぁ二百年の歴史に幕を引いちまった悪者だからよぉ? いつも、いつも……俺ぁ蔑まされてばかりだ。罵られてばかりだ。だから、こんな事でも称賛されて喜んじまう……あぁあぁ、可哀想な俺。こんな女に同情されて、こんな事で褒められて……本当、情けねぇよなぁ」
「よく喋る人ですね」
吉睦が迫る。
が、斬撃は再び盾に防がれ、大振りの一撃を躱して再び繰り出した一撃も、盾で止められた。
「
ジャックから何か、魔力めいた謎の力が放出される。
咄嗟に飛び退いた吉睦は刀を構えながら、自らの腕が震えている事に驚愕を禁じ得ずにいた。
そうしてジャックは、大盾を突き立てる。その背後で大剣を突き立て、胸から下げていた十字のペンダントを引き千切った。握り締めた十字から、どす黒い何かが溢れ出す。
「な、南條?! ちょっと何かヤバそうだよ!? 大丈夫、これ! 僕らも何か巻き添え喰わない?! ってかこれ、勝っても負けてもバッシング凄そうなんだけど!!!」
「ケッ! バッシングが怖くてスポンサーなんか出来るかよ! それに、まだまだこれからだぜ? 異世界から持って来たチートが、暴れ出すのはよぉ!」
ジャックが握り締めていた十字が砕かれた時、ジャックの目が黒く染まる。
白い肌、灰色の髪の中の黒は目立つだけでなく、赤い虹彩も合わさって、より邪悪さを増したような印象を受けた。
得体の知れない何かを取り込んだらしいジャックに、吉睦は先と同様には斬り掛かれない。
「
『じゃ、ジャック! 大剣と盾までも黒く染め、自らを漆黒で包み込む!』
ジャック・ド・モレーが異世界で手にした異能。
天使の力を己が身に宿す――否。悪魔の力を己が身に宿す――否。
天使と悪魔、二つの顔を持つ存在から力を借り受け、その両端を発言させる力――曰く、“
「あぁあぁあぁあぁ。こんな早速使う感じの技じゃあねぇんだけどなぁ。とりあえず……呪うぜ? 盛大になぁ」
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