開戦
チームヴィクトリアvsチームルーザー
TV視聴率五六パーセント。
観客動員数二〇〇パーセント。
場所は変わらず、国立競技場。
観客席は全て埋まり、モニターが設置された明治神宮外苑内にも、競技場の最大収容人数、六万八千に近しい数の人々が集う。
『ただいまの時刻、午後五時五五分……開場からおよそ、一時間半! 会場よ! 外苑よ! 準備はいいか!?』
国立競技場と明治神宮外苑とが一体となり、熱気を声に変えて放つ。
一時期は誰も応援などしていなかったが、競艇や競馬と同じ様に賭けが成立するため、チームルーザーを応援する者も現れ始めていた。
全ての戦績を予想する事などほぼ不可能。故に、チームルーザーに賭ける者達は揃って同じ。チームルーザーの敗北一点賭け。
『今年二位にまでのし上がって来たチームヴィクトリア! これに勝てば、チームレジェンズとの雪辱戦が約束されます! しかし! 相手はあの最弱にして最凶チーム! チームルーザー! 勝負に負け、戦いに勝つ! 監督南條利人の采配は、今回も冴えるのか?!』
チームルーザー監督室。
南條利人のケタケタと笑う声が、止まらない。
何が最弱にして最凶。戦いに勝っても、勝負に負けてれば意味がない。勝負にも勝ち、戦いにも勝って完全なる勝利。
敗者の集いが勝者になる。皮肉たっぷりな展開を作るのに、これだけ時間と労力を要するだなんて。本当に――
「あぁ、面倒くせ。金で勝ちも買えねぇかなぁ」
「何を言ってるの。頼むよ監督……毎回ストレスだらけで白髪が増えた僕の身にもなって」
「ケケッ。わかってるよぉ。まぁ安心して見てなぁ、
『そうして言葉を紡いでいる間にも、今、時刻は……六時! ジャスト!!! 故にこれより、チームレジェンズ対! チームルーザーによる! 転生者大戦一回戦を、始めるぜぇ!!!』
熱気渦巻く会場全体が一体となる。
全てのライトが消灯した直後、チームヴィクトリアの選手入場口を一斉にライトが照らした。
『まずは、チームヴィクトリア……ヴィクトル監督の選ぶ先鋒は、こいつだぁ!』
期待と興奮を抑えた静寂の中、天狗下駄の歩く音が響く。
ドライアイスによって焚かれた雲海の中を歩き、入場口から登場して来たその人を知る人達は、高鳴る鼓動を押さえ、吠える時を噛み締めて待った。
「御試御用。その名目で罪人の首を斬る事、六千人余り! 刀の試し斬りを続けた浪人は、死の穢れを祓う処刑人に至る! 罪を断ち斬り、人を憎まず! 夜を斬り裂き、日の本に朝を届けた処刑執行人! 流れ流れて早、五代目!
チームヴィクトリアの先鋒、山田朝右衛門吉睦。
女として転生したのか、それとも元より男装の麗人だったのか。
だがその歩き方。立ち姿は一本の刀剣のように真っ直ぐで、力強い。入場ゲートを潜って現れた彼女の瞳は鋭い眼光を光らせて、チームルーザーの入場ゲートを真っ直ぐに射貫くよう見つめていた。
「な、南條の読み通り……まずは朝右衛門だったね」
「ケッケッケッ! 自称、太陽の神アマテラスに愛された女……! いいねぇ。だからこそ、倒す価値がある」
「でも、勝てるのかなぁ……あいつで。本当、何でうちには安心して任せられる人がいないんだろう」
「ないものねだりしても仕方ねぇ。手元にあるもので、アレコレやり繰りするしか、勝つ方法なんてねぇんだよ!」
『そして! チームヴィクトリアの先鋒にぶつかる圧倒的敗者の馬鹿! 基、先鋒は……こいつだぁ!』
十字の盾。十字の剣。
左右に分かれた二二人の騎士達が、列を成す。
『キリストとソロモン神殿の貧しき戦友達! 聖地エルサレムへの巡礼に向かう人々を守るため、立ち上がった者達! 修道士であり、戦士! 二三代! およそ二百年続いた聖堂騎士団を終わらせた最後の団長! 異端の濡れ衣を着せられ、財産は没収! 信仰と崇拝を守り続けながら、信仰と崇拝に裏切られ、排斥された男! ――ジャック・ド・モレェェェッッッ!!!』
十字の大剣。
十字の大盾。
左目を覆う眼帯にも、赫い十字が描かれている。
漆黒と灰、そして赫の衣装を着た男が、伝説のチームに引導を渡さんと現れた。
異端の騎士、ジャック・ド・モレー。
『さぁ、両雄揃ったぁ! チームヴィクトリア対チームルーザー、第一試合――山田朝右衛門吉睦、対、ジャック・ド・モレー……
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