第4話  薩摩隼人、襲来

 敵方を迎え撃つべく準備を整えていた鶴崎城であったが、いよいよ南より敵方が姿を現した。


 豪勇なる薩摩隼人・島津家の者達だ。


 島津勢は与兵衛が予想した通り、城の東にある白滝山を中心に布陣し、城を一呑みにせんとこれ見よがしに鬨の声を上げた。


 そんな鬨の声が響く中、城に近付く十数名の騎馬が現れた。


 そして、城の東にある大野川の川縁まで来ると、あらん限りの大声で叫んできた。



「我はこの軍の指揮を預かる伊集院久宜いじゅういんひさのぶと申す者。そちらの総大将は何処か!?」



 櫓上からそれを見聞きしていた妙林は意を決し、兵を押しのけて櫓の手すりに前のめりになりながら叫んだ。



「私の名は吉岡妙林、当主・統増の母で、留守を預かる者でございます。丹生島にうじまでは、息子に手も足も出ず、這う這うの体でこちらに参られた伊集院殿が、本日はいかなるご用向きでありましょうか?」



 きっちり挑発を忘れぬ妙林であった。使い番の情報によって、丹生島城への城攻めを諦めたとの報が入っており、統増があちら側の防衛に成功したということは知っていた。


 そして、その部隊が鶴崎を先に攻略する動きを見せていることも知っていた。それを理解した上での挑発だ。


 しかし、久宜もまたこうしたやりとりには慣れたもの。逆に笑い返してきた。



「これはこれは妙林とやら、ご丁寧な挨拶痛み入る。女子に甲冑を着せて戦陣に立たせるなど、豊後の男は余程の腰抜け揃いと見受けられる。これでは城もすんなり落ちようというものだなぁ!」


 久宜もまた挑発で応じ、周囲の馬廻り達も大声で笑った。


 合戦前のありきたりな一幕とは言え、やはり状況は不利であった。


 妙林自身もそうだが、戦場に立つなど初めてであるし、鼓舞して士気を保ってはいるが、やはり目の前に本物の敵がいると気が引けると言うものであった。


 だが、今更泣き言を言う者はただの一人もいない。


 なにしろ、目の前にいるのは、父の、夫の、あるいは息子の仇であるからだ。


 怒りが恐れを上回り、なにより毅然と振る舞う妙林に勇気付けられ、一様に戦う者の面構えばかりであった。



「では、久宜殿、やってみなされ! 我ら一人の例外なく、すでに戦支度は整ってござます! いつでもお相手致しますので、かかってきなさい!」



 一歩も引く様子もない城方の態度に、久宜は驚いた。


 女子供ばかりだと聞いていたので、降伏勧告をするつもりでいたが、城内の士気が思った以上に高そうであった。


 これではいきなりの勧告には応じる気配はない。


 説得はひとまずやめることにした。少し痛い目を見てもらってから、再度降伏を呼びかけようと判断した。



「では、すぐにでも攻めかかる故、疾く備えをなされておるがよい!」



 久宜は馬首を返し、馬廻りと共に白滝山の本陣へと戻っていった。



           ~ 第五話に続く ~

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