一年前の再演(3)
「それ、本気で言ってるの? 自分のことが好きだってわかっている女の子相手に? それも、さんざん恋人ぶって利用しておきながら?」
「――――は?」
「いやー、ほんと最低。顔は良いのに浮いた話を聞いたことがないとは思ったけど、なるほどね。そりゃあ、この性格じゃモテなさそうだ」
「は…………」
「というか、僕だって嫌がる相手と結婚したくないし。女の子の扱いもダメだけど、そもそも人の使い方が全然ダメ。君、ちゃんと相手の気持ち考えてる? ちゃんと相手の顔見てる?」
「………………」
ぱちり、とテオドールは大きく瞬いた。
大広間の壇上。大勢の重臣たちの視線の先。ジュリアンを差し置いて、王太子さながらに胸を張っていたこの男は、そのまま時が止まったように固まった。
一瞬、周囲には沈黙が満ちる。
テオドールの表情は凍り付き、大きく開いたままの口からは声も出ない。
ただ彼の目だけが、言葉の意味を噛み締めるように何度か瞬くだけだ。
その状態で、たっぷり数十秒。
ようやくテオドールの顔が驚きに歪んだ。
「は――――――はああああああ!!!?? どういうことだ!?」
静かだった大広間に、今度はテオドールの絶叫が響き渡る。
耳が痛いほどの大音声は混乱があらわで、顔には動揺が隠せない。
態度を取り繕う余裕すらもないのだろう。他国の王宮であることも、無数の視線にさらされていることも忘れたように、テオドールは愕然と叫んだ。
「どうして断る!? なんだその態度は!? 王太子は魅了にかかっているはずじゃないのか!!??」
「魅了、ねえ……」
対するジュリアンは、いつもの飄々とした態度を崩さない。
怒りも不快感も腹の底に呑んだまま、彼は笑うように肩を竦めた。
「悪いけど、僕は魅了にかかっていない。僕だけではなく、他の誰も」
ただ、瞳だけが冷たくテオドールを刺し貫く。
焦り、たじろぎ、強張りながら――己の武器を確かめるように、姉の首筋に触れる男を。
「この場で魅了にかかっているのは、ルシア一人だけだよ。最初からずっとね」
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