魅了魔術(7)

 ジュリアン曰く。


『いやね、僕もリリアの話を聞くまでは、引きこもってないと駄目かなーと思ってたんだけど。でも、リリアに魅了がかからないなら「この計画いけるじゃん!」って頭に浮かんで』


 ふ。


『なんにしても、ルシアの魅了には解呪が必要なわけじゃん? それで、今王都で手が空いている魔術師って僕くらいだし。あっちとしても王太子である僕は落としておきたいだろうし。ルシアに自然に近づける立場を利用しない手はないかなって。逃げ回るよりは魅了受けちゃった方があっちも油断させられるしね』


 ふ――。


『でも魅了されたら正常な思考ができなくなるわけでさ。できるだけ上手く動くつもりではあるけど、やっぱり完全には難しいと思うんだ。だから僕の代わりに動ける人間が欲しかったんだよね。ルシアの魅了の蔓延を上手く制御する役ができる「誰か」がさ』


 ふ――――――。


『臨機応変な対応がいるから下手な相手には任せられないし、ルシアに狙われるような相手でも駄目。で、どうしようかと悩んでいたところに、絶対魅了されない君が』


 ――――――――ふ。


『そういうわけで、君に僕の王宮での全権を預けるから。期限はヴァニタス卿が戻ってくるまでの一か月。上手いことギリギリで維持してね』





「ふざけるな―――――――――――!!!!!」


 よろしくね、と良い笑顔で押し付けられたのは昨日のこと。

 魔術師団事務室を離れ、今は王宮深く。本来なら王族しか立ち入ることのできない執務室。


 王宮中の人間の情報が記された、山のように積み上げられた資料を前に、私は渾身の恨みを込めて怒りの声を上げた。


『大変だろうし、この一か月は魔術師団の仕事はしなくていいから』とかなんとか言っていたけれど、ありがたくもなんともない。

 どう考えても仕事量が増えている。しかも倍増どころではなく。


 ――いえ、わかるわ。わかるわよ、ジュリアンの言い分は。お姉様の魅了をなんとかしないといけないのはその通りだし……!


 話の筋は通っている。きっとこの状況では最善手でもあるのだろう――けど。


「無茶ぶりにもほどがあるわ! どうしろって言うのよこんな――うぐっ! 胃が……!!」


 キリキリ痛む胃を押さえ、私は姿なきジュリアンを睨みつけた。


 ――お、覚えてなさいよ!!


 あの男、いつか絶対に痛い目に遭わせてやる!!!!

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