第25話 毒の姫 その7
姫の言う通り、四つ脚のドラゴンはあの強力な毒矢を3本も食らったと言うのに、何食わぬ顔で上空旋回していた。
もともと毒など効かない身体なのか、それとも硬い鱗に矢は刺さっても内側の皮膚まで矢が到達していないのか、それは俺にも分からない。
でも俺にだってこいつが今まで倒してきた小さな飛竜達とは比べ物にならない別格の存在であることぐらいは分かる。そして、その真のドラゴンとやらに目をつけられた俺達には、逃げると言う選択肢が表示されていないと言う事も……。
つまるところ。俺達はこのドラゴンを倒す意外に、もう生き残る道は無いのだ。
ただ……。
姫の毒矢が効かなかったとしても、俺達に手が無いわけでは無い。「なんとかしてヤツを地上へと落とすことができれば……」そう考えているのは俺も、毒の姫様も同じであった。
「相当にまずい状況だけど……奥の手ならあるわ。」
まず、そう言ったのは姫様のほうだった。毒の使い手の奥の手など、正直あまり想像したくも無いが……その言葉で俺も覚悟が決まったと言ってもいい。
彼女に奥の手を使わさなくたって、俺にも出来ることはまだ山ほど残っているのだ。
しかし、それもドラゴンに俺の剣が届いてからの話。
姫様の矢が使い物にならなくなった今、ここでようやく俺にも出番が回ってきたのだ。
「なぁ……姫さん。毒矢が効かなくても俺のとっておきならどうかな?」
「とっておきって、貴方がさっき飛ばしたやつのこと?」
「そうだ。あれならあのドラゴンを落とせないか?」
要は、俺の得意技の指弾を最高出力でドラゴンにぶつけようと言うわけだ。さっきの一発はワイバーンの頭を一瞬で吹き飛ばすことが出来た。いくらドラゴンでもそれだけの威力の指弾を食らえば何らかのダメージは受けるにちがいない。
しかし、毒の姫様の表情はぱっとしない。それどころか難しい表情でこう言うのだ。
「さぁどうだろうか。確かに威力はありそうだったけど……飛ばしたのは小石でしょ?それじゃぁ飛竜はいけてもあのドラゴンは無理だわ。多分あいつの鱗は貫けない。」
それは、拒否などでは無く、懸念に近いものだったが、俺の頭の中には、その問題点の打開策が既に出来上がっていた。
「でも、君の射た矢は刺さってただろう?」
毒の姫は、俺のその問いかけに「だってあれは特注だもの。」と、そのままの答えを俺に返してきたが、その言葉を言い終えた瞬間、彼女の表情がパッと明るいものに変わった。
どうやら毒の姫は、俺が何を言いたいのかを理解してくれたようだ。
「やってみる価値はありそうね。」
そんな言葉に俺は「あぁ。」とだけ答える。そして姫は腰にぶら下げた矢筒から一本の矢を取り出して、その先端だけを手折るとそのまま俺に手渡した。
「安心して。これにまだ毒は塗って無いから。」
姫はそう言うと少し笑った。おそらく俺が矢じりの受取を一瞬ためらったからだろう。
「一発で仕留めようなんて欲はかかないでよ。地面に降りてくるだけでいいんだからね。そうしたら私の奥の手で……。」
毒の姫は、矢じりを手渡しながら念を押すように言った。もちろん俺もそのつもりだ。だが……俺は彼女に奥の手を使わせる気はさらさらない。まず先に試してみるべきは、あのテトカポリカとか言う邪神の頭を切り落とした大技である。正直、毒の姫様の奥の手は、なにか嫌な予感がしてならないのだ。
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