第24話  毒の姫 その6

 「ほんと、そう言う大事なことは先に言っとけよ……。」


 俺は小さくそんな愚痴を言っては見たものの、それでもやっぱり……結局のところ俺はこの状況を打破するために女の言う事に従って、死の危険と隣合わせになりながら矢を拾い集めなければならないのだ。


 そんな俺は、もうまったくもって損な役回りなのである。


 そして……3体目、4体目と今度は絶対にワイバーンの血を体に浴びないように慎重に矢を引き抜きながら、俺は上空からの攻撃を巧みに躱し、さらにどうしても躱せない場合は右手の剣でその翼を切り落とし……とうとう10本目の矢を手にすることに成功する。

 いやはや、なんともギリギリの攻防戦を征した俺は、なんとか姫君ひめぎみもとへと辿りつき、その手にかき集めた矢をようやく手渡す事が出来たのである。


 しかし、八面六臂の活躍をした俺は、ちょっとばかり目立ちすぎたのかもしれない。


 姫様の毒の矢の傘の下に戻り、やっと一息ついたのもつかの間。呼吸を整えながら改めて上空を見上げた俺は、その異変に気が付いた。毒の矢を警戒していたはずのワイバーン達の様子が明らか先ほどとは違う。いつの間にか変化しているのだ。


 もちろん、横で矢をつがえている姫君もその変化に気がついていた。その証拠に彼女は俺に再び矢の催促をしてこない。

 既に彼女の手元の矢は、先程俺がかき集めてきた10本だけ。彼女の放った矢が全て命中したとしても、倒せるのはあと10体……。


 このまま俺は剣を構えているべきか、それとも得意の指弾に切り替えるべきか……。一瞬の迷いを姫が察して「剣よ!」と叫ぶ。


 そして、次の瞬間。姫が一体の飛竜に向けて矢を放った。


 一直線に上空へと放たれた矢は、比較的低空を飛行している小型のワイバーン達を無視して更に上へと上っ行く。そして……その矢は。群れの中央にいる一番巨大な飛竜の腹に突き刺さった。


 突然ワイバーン達が、彼女の矢を恐れなくなったのは。このボスがついに俺達を狙って動き始めたからに他ならない。つまり、姫はあえてそのボスを落とす事によって群れの戦意喪失を狙ったのである。


 だが……おかしい。いくら待てどもそのボスが地上へと落下して来ないのだ。


 突然……。


 姫が何かに反応して「アッ!」と声を上げた。そしてその途端、慌てたようにして二の矢、三の矢を間髪を入れずにボスめがけて発射した。


 その姿は……誰がどう見ても確実に焦っていた。


「おい。いったいどうしたんだ?」


「ちょっとまずいかも……。あの真ん中にいる大きな竜……。あれ、飛竜じゃ無い……。」


「飛竜じゃ無いって……。ワイバーンじゃ無いって言いたいのか?」


「ええ。最初から……少し大きいなと思ってたんだけど……。あいつ前足があるの。あなたにも見えるでしょう。」


「すまん。確かに前足っぽいのは見えるが俺はあまりドラゴンには詳しくないんだ……つまり前足があると言うのはどう言う意味だ?」


「前足があるって事は……あれはワイバーンみたいなドラゴンモドキじゃなくて、本物のドラゴンってことよ。災害級のモンスター。まったく……あんなヤバいのが混ざっていたなんて大誤算だわ。つまりね……。多分あいつには私の矢は効かないの。」

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