第78話 カイル Millennium nine swords その1


 さて。ここで一度思い出してほしいのですが……。邪神テスカポリカをドーマの身体に封印したのはいったい誰だったでしょうか。


 稀代の魔術師エイドリアン……?。いえ、彼女も手伝いはしましたけど、あともう一つあったでしょ。


 ほら。


 神竜ククルカン。


 え?それがどうしたって?


 いやいや、良く見て下さい。ですよ……何か思い出しませんか?


 神竜……………しんりゅう…………神龍………?


 そう。シェンロンです!!




 まぁ、そんな訳で……。


 目を覚ますと、俺は絶世の美女3人に囲まれていた……。どういう訳か、仰向けに寝かされた俺の顔を覗き込むようにして美女3人が取り囲んでいた。


 あまりにも目覚めた瞬間に3人の顔が目に入って来たものだから……俺は一瞬「ハーレムモードに突入か?」とも思ったりもしたけれど。


 でも、この3人じゃぁねぇ……。


 一人はもちろん俺の妹レイラだ。こいつったら俺が目を開けたとたんに大声で泣き出しちゃって。もしかして……俺が死んだって勘違いしちゃった?涙で顔がボロボロじゃないか。ちょっと気を失ってたぐらいで……大げさなんだよな。


 もう一人は……。あまり顔に見覚えがないけど、こんな特徴ありまくりの容姿じゃあ、嫌でも直ぐに誰だか分かっってしまう。褐色の肌に尖った耳とくれば……。あのダークエルフのドーマしかいない。初めてまじまじと顔を見たが、さすがにエルフ族、こいつもなかなかの美女である……。が!しれっと腹ん中で邪神を飼ってたとんでもなくやべぇ奴だ。


 そして最後は、泣く子も黙る稀代の魔術師エイドリアン。こいつったら本当に見た目とスタイルだけはバツグンなんだよね……。まぁ、喋らなければねぇ……充分メインヒロイン張れたかも知れないのにねぇ。本当に残念なメイドだと思う。


 と、まぁ。そんな3人に俺は囲まれちゃってたわけなんだけど……。正直言うと、ぽっかりと記憶が飛んでまして……何がなんだかさっぱりだったんだ。


「お前たち……3人揃って俺を覗き込んで、いったいどうしたんだ?」


 もちろん俺は目を覚まして直ぐにそう言った。


 でも………。


 妹はワンワン泣くばかりで話にならないし……。じゃあ、ダークエルフはと言うと……邪神の時なら良く目は合ったけど、まともな姿ではほぼ初対面。ということで、結局エイドリアンが答えてくれました。


 ちょっと上から目線の呆れ顔で……。


「何を言ってるんです。あなたはさっきまで死んでたんですよ」


 まぁ俺も、なんとなくそうなんじゃないかとは思ってはいました。


 あの時、全ての気を妹に託したあと、俺は真っ白になってましたから。そう言えば、「もう俺には思い残すことは無い……」なんて格好いい事も思っていた様な気がします。


 でも、


 まさか本当に生き返えることが出来るなんて……俺は夢にも思わないわけです。たとえあいつが神龍シェンロンだったとしても、は手元に揃っていないんですから……。


 そんなくだらない事を考えながらも、いまいち頭の整理が追いつかない俺ではあったけれど……「ほら。早く剣聖ちゃんに、ただいまって言ってあげなさい」エイドリアンにそう言われて、俺はやっとその言葉を妹に言っていない事に気が付いた。


 そして俺は、改めて成長した妹の顔を覗き込む。


 もちろん幼かったあの頃の面影は有る。泣きじゃくってはいるが、その眼差しは今だって修行に励んでいたあの頃のままだ。


 でも、今の妹は俺が知らない部分もたくさん持っている。高くなった背丈もそうだが、極限まで研ぎ澄まされた剣技や、騎士団長となって少し貫禄のある言葉遣いもそう。それらはみんな俺と離れてから彼女自身の選択で手に入れた物なのだ。


 理由は何であれ……。俺がみっともなく妹から逃げていた間に、彼女はもう自分の足で歩き始めていたのだ。


 だって剣聖だよ……。騎士団長だよ……。


 はたして俺はこれからも妹の師匠であることができるのだろうか……。俺の頭の中には、前世で会得した至高の剣技の数々がいっぱい入っているというのに。今の彼女がそれを必要としてくれるだろうか……。


 そんな不安など無い……と言えば嘘になる。


 だが、それも妹が自分で決めればいい事だ。妹はあの幼かった妹ではなく、今ではもう一人前の大人おとななのだ

 

 一度死んで、生き返った者は、その後の世界が変わって見えるらしい。まぁ俺もそういう事なのだろう。ひょっとしたら明日にはまたあの捻くれた俺に戻っているかも知れないが……それはまたあとの話だ。


 そんなことにようやく気がついて、今の俺は思いのほか心の中が澄みわたっていた。だからこそ、ようやく心の底から俺は妹にその言葉を言うことが出来たんだ。


「ただいまレイラ……」


「うん、おかえりお兄ちゃん……」


「あぁ……。心配をかけた」


 たったそれだけのやり取り。


 俺達兄妹の再会は、結局のところ感動のハグでは無かったけれど……


 妹のぐしゃぐしゃの顔が、パッっと笑顔に変わった。

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