第67話 カイル THE LAST MASTER その7

 無茶な理論でなんでもいい。もうこうなれば俺達がやれる事、試せることを全てやってみるだけである。


 そして俺達の手元には無茶な理論の塊『千年九剣』があるのだ。


 


「おいレイラ。お前の三層『絶対分析』で、あのダークエルフの位置が分からないか?」


 そう。まずはこの作戦を試すべきなのだ。


 もちろん俺の言っていることは無茶苦茶だ。相手は魔力出できた邪神の化身。そんなラスボス級の敵が、そんな簡単に手の内を明かすはずがない。


 しかし、もしそれが分かるなら、少々強引ではあるが一番手っ取り早い方法なのだ。なんせ妹はあの邪神すら封じ込めた魔力結界を一刀両断にしたのだから。


 そして、もしダークエルフの位置が分かるなら、それ以外の場所を手当たり次第に切り刻むまでである。


 


 だが、妹の答えはNOだった。


 やはり妹の目を持ってしても、あの黒い魔力のかたまりの中身までは見え無いらしい。


「やっぱりダメか……。あの結界を破壊したお前ならばもしやと思ったが……」


 まぁ、結局のところ結界のような魔力出できた卵の殻を割るのとは訳が違うということだ。邪神は、言うなれば魔力がとことんまで詰って出来たボーリングの球なのだ。


「ごめんね、お兄ちゃん。やっぱり無理」


「いや、謝らなくていいよ。第三層はエデンがやった様にもともと人相手に使う技だ。それより、もう一度協力してあいつの頭を落とそう。そしてあいつの魔力の流れをもう一度見極めようじゃないか。」


「分かった。その時もう一度ドーマさんの位置を探って見るね」


「ああ。そうしてくれ」


 そして、俺達は互いに目で合図をすると、今度こそ邪神を挟み込むように対峙する。



 今さら躊躇している暇はない。話が決まれば、もう一度こちらから攻撃を仕掛けるのみなのだ。


 それに……。


 まだ、誰も気がついてはいないだろうが、俺には邪神に対しての有効な攻撃方法に一つの心当たりがあるのだ。


 そのヒントは、俺が思わず有頂天になってしまった、ついさっきの邪神との攻防だ。


 いままで、剣聖の妹をもってしても決定的なダメージを与えることの出来なかった邪神が、あろうことか俺のたった一発の攻撃で頭を吹き飛ばされたのだ。


 それが意味することとは……。


 少しでも頭を使えば誰にだって分かるさ。


 おそらくそれは、俺が『気』の力を使えたからに他ならない。


 話は極端になるが……。俺が思うに、もしかしてこの世界には『気の力』いわゆる『内功ないこう』という概念そのものが存在していなかったのではないか。


 そのために、邪神は未知なる『気』という力に対応出来ていないのだ。


 まぁ、これは今の所、単なる俺の仮説に過ぎない。


 だが、それも今すぐに分かる。


 なぜなら、今この場でそれを試せば良いだけなのだから。



 そして、俺が今から使う技は、『千年求敗物語』の冒頭で悪漢から一人の少女を救う為に求敗が一番最初に繰り出した大技。


 その技に名前など無い。ただ全身の闘気を全て振り上げた剣に集め、渾身の力でもって振り下ろす。


 ただそれだけにこの技は隙も多い。


 だが。


 妹も、俺が剣を両手に構えて振り上げた瞬間から俺の意図を理解したようだ。うまく立ち回って邪神の気を反らせてくれている。


 そして、やはり妹は尋常じゃない……。


 距離


 角度


 そして、タイミング。


 全てがベスト。俺の気が最高潮に達した所で俺が望む物を全て用意してくれた。


「さぁ。お兄ちゃんやっちゃって!」


 まったく良く出来た妹だよ。


「レイラ!全てが完璧だぜ。良く見てろよ。これが俺達の大師匠の必殺技。名もなき一刀だ!」


 俺は渾身の力をもって、邪神の首に必殺の一撃を放った。


 そしてその凄まじい斬撃は、気の力を纏ったやいばはとなる。


 もちろんレイラが用意してくれた絶好のタイミング。その刃は一直線に邪神の首へと放たれて、見事邪神の首はその胴体からこぼれ落ち、そのまま黒き魔力の煙となって消滅したのである。


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