第27話 カイル 明日のために…… その14
最近の妹は全く修行に身が入っていない。あの日。俺が妹に与えた剣も、今では暖炉の横に立て掛けられたままで、妹はまるでその存在すらも忘れてしまったかのようだった。
なのに。この妹の剣幕はなんだ?
両の手を力いっぱいに握りしめて、今にも涙が零れ落ちそうな潤んだ目で俺を見据えて。
なんで、そんな事を言うの?と問い詰めんばかりに、その視線を俺の目から離そうとはしない。
「私。絶対に止めないから……」
妹のその言葉は、もはや断言と言っても良かった。そして。もちろんそこには、俺に対する怒りが込められている。
でも……。俺。そんなに酷いことを言ったか?
毎日一生懸命に修行に打ち込んでいたなら、俺だって簡単にそんな事は言わないさ。
でもレイラ。ここ最近のお前は剣の修行なんて全くしていなかったかじゃないか……。
「なぁレイラ。お前はどうしてそんなに剣術の修行がしたいんだ?」
今さらだ。
でも俺には、もう妹にそう尋ねることしか出来なかった。
それは、信じる者と騙し続ける者。そんな関係を四年も続けてしまった俺達兄妹の心の溝だったのだろう。
この時の俺は、妹がどれほど真剣に俺がデタラメに考えた剣の修行に打ち込んでいたのかを、本当の意味で理解できていなかったのだ。
「そんなの。お兄ちゃんと一緒にドラゴン退治がしたいからに決まってる」
半分べそをかきながら、しかし迷うこと無く口にした妹の答えは、たったそれだけだった。
それは、あの日から……
それはまさに物語の主人公のように、妹はただひたすら、俺と一緒にドラゴン退治の旅に出る夢を、その小さな胸に抱き続けていたのだ。
ならば、修行を突然止めてしまったのは何故?
いや。
実際、妹は修行を止めてなどいなかったのだ。
それどころか、妹は、第三層の『絶対分析』を修得するためにありとあらゆる可能性を試していた。
ただ遊んでいたように見えた妹は、実はその時。
分析する能力。それを磨き上げる為に、日夜『水の流れ』を知り、『雲の動き』を読み、『太陽の暖かさ』を感じ『雪の冷たさ』をその身に刻んでいたのだった。
それはまさに日本の剣豪達が行き着く先。『禅』の精神にも通じる修行だった。この時の俺は、すっかり忘れていたのだ。『第三層』の修行に剣など必要の無いことを。
そしてもう一つ。
俺が妹をここまでの境地に立たせてしまったある間違った一言。その誤解こそが、この第三層の修行を長引かせてしまう原因だった。
俺はこの第三層の修行を始める時。紛れもなく妹にこう言っていた。
「次の第三層の修行はレイラにこの岩を切ってもらう」
そう。『岩を割る』では無く『岩を切る』と……。
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