第24話 カイル 明日のために…… その11
俺が山に入る時に、妹が天気の事を口にする様になったのは夏の頃からだったろうか。
山の天気は変わりやすく、俺も常日頃から山に入る日の空模様には細心の注意を払っている。とは言ってもこの世界には天気予報なんて便利な物は無い。だから出来ることといえば昔からの村の言い伝えを参考にすることぐらいしか無いのだが。
村から見て西の山々が霞んで見えれば天気は下り坂。逆に山の先にアマルカの霊峰まで望む事が出来れば次の日まで天気は崩れない。
まぁ、そんな程度の簡単な言い伝えである。
だからアマルカの霊峰がくっきりと見えた今日は1日中晴れの予定だった。
でも、今日はどうしてだろうか。さっきまでは秋空が綺麗に晴れ渡っていたというのに、いつもの谷を二つ超えた辺りから何だか怪しい雲行きになってきた。奇しくも、妹のなんちゃって天気予報が当たってしまいそうな予感である。
ただ、そうは言ってもまだまだ日は高い。このまま薬草のあまり入っていない軽い籠を背負って家に帰るのももったいない話である。
俺は家まで峠をあと一つという所で、いつもの道とは違う岩場の多い道を進むことにした。この道は足場が悪く、めぼしい薬草もあまり生えてはいない。そのため、めったに通ることは無いのだが、それでもこの道は以前一度だけ『
家に戻るには少し遠回りにはなってしまうが、久しぶりに一獲千金を狙ってみるのに今日はちょうど良い機会である。
俺は、程よい岩に手をかけながら辺りの木を見渡して、霊芝の生えていそうな古木を探した。この道は木々に紛れて辺りに俺の背丈程の岩がゴロゴロと突き出している。どれもこれもが、妹の修行に使えそうな岩ではあったのだが、それも「今さら」と言うべきだろう。
もう妹は、修行に飽きてしまっているのだから。
あいにく霊芝はそう簡単には見つからない。それだからこそ高級霊薬として取引されるのだ。
しかし、俺はそんな霊芝よりも、先程からずっと気になっている事があった。
俺が、この道を使うのは一年以上ぶりなのだが、はたしてこんなに歩きやすい道だっただろうか……。というのも、俺の記憶ではもう少し大きな岩が行く手を阻み、それを何個も乗り越えなければならなかったはずなのだ。
しかし、今はどうだろう。その大きな岩が何かの衝撃で砕けでもしたかのようにバラバラになっていたり、はたまた2つに割れていたり……。
自分の記憶が不確かな為に自信は無いのだが。どうにも不自然なのだ。辺りの巨岩と言う巨岩が、家に近付くに連れどれもが真っ二つに割れていたり砕けていたりしているのだ……。しかもその断面は調べるまでもなく真新しい……。
妹の言った通りに雨は次第に小雨から本降りへと変わっていった。家路へと急ぐ俺の脳裏に一つの仮説が浮かんだ。
――この道に点在する不自然に破れた岩の数々。これはもしかして妹が砕いたものではないだろうか……。
しかしそれは、俺の希望的仮説に他ならない。何故なら、あれだけ強くなろうとした信念を、俺は今の妹から一つも感じとる事が出来ないからである。
第三層の修行を初めてから、二年。
妹と共に巨岩と向き合ったあの雪の日に、俺は一つの間違いをおかしていた。
そして、それが妹をさらなる高みへと導いてしまった事に、俺はまだ気が付いていない。
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