第16話 レイラ 負を求めし剣聖 その7

「待って下さい団長」


 突然足を進めたレイラをアイシアが慌てて追う。


「もしかして、あの少年を見つけたんですか?」


「あぁ。やっと見つけた。私がずっと探していた兄の欠片かけらを……」




 少年は袋から取り出した色とりどりの石を、足下に敷かれた赤い絨毯の上に散りばめる。

 赤、靑、黄色……それから白と黒。レイラが良く知っているいつもの五色の石が百個ほど絨毯の上には散らばっていた。


 程なくして、観客が集まってきたことを確認した少年は、ゆっくりとその散らばった石を眺めると、おもむろに自分の目を黒い布で覆い隠し目をふさいだ。



 ――やっぱり。


 レイラの予想は確信へと変わりつつある。


 この少年が今からやろうとしていることは、多少の手順は異なるがレイラが兄から習った手法とほぼ同じ。これは明らかに『第二層』の修行である。



 そして、その修行で身に付くのが……


『千年九剣 第二層 超運動制御』


 それは、自らの体を視覚や聴覚に頼る事なく、筋肉から伝わる情報のみで制御する能力。


 もし、レイラの推測に間違いが無ければ、少年はこのばら撒かれた石を『第一層の超空間認識』を使用して寸分たがわず記憶しているに違いない。


 ならば次はおそらく、自分の記憶に従いながら『超運動制御』の能力を使い、客の指定した石だけをを拾い上げるはずである。




「白だ!」


 観客の一人が叫んだ。


 すると少年は「わかった。白だね」と、確認でもするかのように辺りに声を張り上げて、そしてゆっくりとその身をかがめると、絨毯の上から迷わず白い石を拾い上げた。


 その見事な技に、「おぉ〜」と観客がどよめいた。


 しかしたかだか一回成功したぐらいでは観客も満足はしない。もちろん少年もそれは先刻承知である。


 すかさず「次は何色だい?」と声を上げた。


「じゃぁ、今度は青よ」


 次は女の声だ。


 すると、今度もまた見事に指定された靑の石を拾い上げた。


 その後、少年は2度3度とそれを繰りかえすと、彼は観客の様子を見計らって今日一番の大きな声を張り上げた。


「じゃあ最後に、赤い石と黒い石を全部拾い上げるよ。」


 その少年の声で今まで以上に観客がどよめいた。だが、おそらく観客達は手品か何かを見せられているとでも思っているに違いない。



 レイラはその少年の様子を少し離れた場所から眺めていた。時におどけたり、また時に失敗しそうな素振りを見せながらの芸は、もちろん観衆を沸かすため。それはレイラにも分かっている。


 だが、もし彼が今宣言したように全ての赤と黒の石を目隠ししたまま拾い上げる事ができたならば、彼は間違いなく『二層』以上に到達している。それは間違っても手品などの曲芸ではない。



 少年は観客が固唾をのむ中、少し迷う様な振りをしつつ赤と黒の石を一つずつ慎重に拾い上げていく。そして最後に残った一個を不安気に拾い上げると、今度は歓声が観客からどっと湧いた。



 そのタイミングを見計らって少年がササッとカゴを差し出す。するとそのカゴの中に次々とチップが投げ込まれ、瞬く間にカゴはコインで溢れていった。


「ヘヘッ。大儲け、大儲け……」


 観客が立ち去る中、そう言って嬉しそうにコインをかき集める少年。もちろん彼の興行はこれでおしまい。


 しかし、この少年が気が付かないわけがない。二つの影がその場を離れることなくずっと自分を見つめている事に。

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