第12話 カイル 明日のために…… その5
「赤4、青2、黄色7、白7、緑3」
こういう事は、一度見本を見せてやったほうが早いのだ。
俺は、おもむろに袋から取り出した石を地面にばら撒いて。妹の前でこれ見よがしに数えてやった。タイムにして0コンマ8秒!
それも、石の数だけじゃなくて、それぞれの色までちゃんと数えてやったぞ。どうだ?ビビったか?
ウンウン。当然、信じられないって顔をしているな。もちろんこれは俺の固有スキル『小銭数え』……。を応用したものだ。
時々いるんだよ、財布から小銭をじゃらじゃら出して
「ハイ。ろっぴゃくはちじゅうさんえん……。なんて人が……。特におばぁさんに多い。これマメね」
まさか前世でのスーパーレジのバイトがこんな所で役立つとはね。
だから、俺。そんな石ぐらいだったら一瞬で数えちゃうから。
っていうか、レジマスターのパートのおばさんなんか、もっと凄いからね。レジカゴの全商品を一瞬で把握して、頭の中で再構築。そして流れるような手付きでバーコードを読み取り、そして………。隣のレジカゴへと移された商品は、整然かつ美的に詰め込まれて、それは正に芸術作品。いわゆる収納魔法の達人だよ。
そのスーパーテクニックに誰もが目を奪われる彼女の名前は、池端道子さん五十八歳、去年の暮れに二人目の孫が産まれました。だから火曜木曜はパートには入れません。
ごめん。ちょっと脱線しちゃいました。
まぁ、それからと言うもの。妹は毎日ばら撒いた石とにらめっこ。この修行なら雨の日でも室内で出来るし、何よりもわざわざ池の側なんて危険な場所に行かなくて済む。
妹の目がちょっとマジ過ぎなのが怖いけど、『小銭数え』のスキルはひと月やふた月やったぐらいじゃ身に付くものじゃぁ無い。俺だって、五年以上かかったんだから、いそがずゆっくりとやりなさい。
でも……。
修行を始めてから2ヶ月ほど経ったある日。ちょっとした事件が我が家に起こった。
その日。俺は、いつもの様に早朝から薬草の採取へ向かおうと、身支度を整えて家の玄関へと向かった。そろそろ季節は冬。山はもうすぐ雪に覆われるけど、冬は冬で俺の薬草採取の仕事がなくなっちゃうわけではない。
木の根やら、倒木の下に隠れて冬眠をしている虫達やら、この村の薬草ハンターに休みはないのだ。
「じゃあ、行ってくるね〜」
俺は、朝っぱらから機嫌よくそう言うと、玄関の戸を開ける三歩前で躓いた。
「なんだよ。またか……」
俺は、このところ家の玄関の前で良く躓く様になった。全く縁起が悪いったらありゃしない。
最初はさほど気にしてはなかったよ。でも、あまりにも良く躓くから、お化けの仕業だったり、ご先祖様の忠告だったりしたら嫌だな〜なんて思って、念のため床を調べてみたんだ。
当然何も無いよ。あるわけが無い。
でも
実は、ほんの少しだけど床板がすり減ってへこんでいたの。
「な〜んだ。お化けの仕業じゃなくて良かったよ。そりゃ躓くよね」
なんて……それで終わらすわけ無いじゃろがい。今まで、こんな事あったか?いや無かっただろ?
「まさか?」
俺は、嫌な予感がしたもんで、慌てて朝食の後片付けをしている妹に聞いたよ。
「おいレイラ。お前まさか、石を数える修行……いつも玄関の戸の前でやってるのか?」
想定外と言うか案の定と言うか。妹は「うん」って返事をしやがった。でもでも、そんな事で床がすり減ったりするか?思いっきり叩きつけてるわけでもあるまいし……。
そんな時、俺の目に食器を洗う妹の手が入って来た。
俺は愕然としたよ。
「あゝ、妹よ。お前はなんて健気で頑張り屋さんなんだ……」
お兄ちゃん、感動して涙が出てきたよ。
だって、あの小さくてプニプニしたお手々が、痛々しくタコだらけになってるんだもん。
どうして今まで気が付かなかったんだろう。それは完全に俺の不覚だ。そんなに頑張っていたのなら、ちゃんと見て褒めてあげなければならなかったのに。私は極力褒めて伸ばす派なのだ。
ヨシ。今日の薬草ハンターは薬草を採りに行くのは中止な。
「今日はお兄ちゃん。お前がどこまで出来るようになったか見てあげよう。だから片付けが終わったらここで見せてみなさい」
しかし、妹の口から出た、言葉はちょっと意外な言葉だった。
「ごめんお兄ちゃん。今はそこではやって無いの。だってそこじゃ狭いんだもん」
ん?
あれ?なんかおかしいぞ………。狭いってどう言うこと?石ころポイって投げるんなら玄関は全然狭く無いよ。お兄ちゃんの聞き違いかな?
だってさ、ここで狭いならいったいどこでやってるのさ?そう言えばお兄ちゃん最近、他の場所でも良く躓くんだけど。
あの、レイラさん? 申し訳ないけどさ。俺、もう一度聞いちゃってもいいかなぁ……。
「今、ここじゃ狭いって言わなかった?」
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