第48話 Magic of Love

 オープニング映像のあと現れた8人。その姿に黄色い声援があがる。


 1曲目はアルバムに収録されていた楽曲。ミュージックビデオが公開されれば1日で簡単に100万回再生。後悔されて2ヶ月近く経つ今では1500万回再生を越え、今も再生回数を伸ばしている。

 激しいダンス、会場全体に鳴り響く曲。小さなスマホの画面で見ていたパフォーマンスが今私の目の前で繰り広げられている。


 コンサートは順調に進,み、ポップな曲からバラードまで幅広く披露されていく。それに合わせた映像、特攻、衣装は曲もアイドルそのものもよりキレイに彩っていく。


 楽しいはずのライブを素直に楽しめていない自分がいた。


 ライブも中盤。MCに入り、煽りからメンバー同士のわちゃわちゃした会話が進んでいく。

「涼ちゃん、それこそ今ドラマやってるじゃん。」

 メンバーの1人が話をふる。

「そうなんです。次で最終回なんですけど、主題歌も僕たちが担当させてもらって。みなさんのおかげで1位取らせていただいて、本当にありがとうございます。」

 他のメンバーも「ありがとう」と言うと会場からは拍手が溢れる。

「本当に我々がこうやって活動できてるのもみなさんのおかげですからね。」

「ほんとありがたい。」

「ここでその新曲を披露したいと思います!」

 その言葉と共に会場は大盛り上がり。メンバーは最初の位置にスタンバイしていく。

「後半戦も盛り上がって行けますか!」

 その煽りでさらに会場のボルテージは上がった。

「では、後半戦は僕が主演をさせていただいたドラマの主題歌をこの会場で初披露します。それでは聞いてください。Magic of Love」


 そのMCと一緒にイントロが始まる。ポップなラブソングなはずなのに、どこか切なさや哀愁を感じるイントロ。毎週、ドラマで聞いていた曲。


 気がつけばドラマも最初の3話だけ見て、それ以降はほとんど見ていなかった。見ることができなかった。恋愛もののドラマだった。始まるときはワクワクして、これで毎週の楽しみが少なからず今シーズンはできたなとそう思っていた。でも、実際はそんなことはなかった。内容はベタな恋愛ストーリー。相手の女優は誰もが憧れる美しさを持つ女優。そして、誰もが美しいとうなるアイドル兼俳優。その2人が写る画面は華があって、若い女性を中心に話題を呼んだ。話が進む事に2人の関係値も近づいて行く。3話の最後に2人がよく見るデートシーン。その最後でこのドラマ初のキスシーンがあった。そのシーンを見て今までは何も感じなかったはずなのに、今回は耐えられなかった。嫉妬なのか、羞恥心なのかわからない。ただ、胸をきゅっと捕まれるようなそんな感覚になってからドラマを見る気にはなれなかった。その反面、ドラマは最終回が迫っていると言うこともあって最後の盛り上がりを見せていた。


 後半戦も盛り上がり、メドレー形式でライブの定番曲が続く。その間メンバーはメインステージからセンターステージに向かってムービングステージが動いてくる。近くて遠い。それは気持ち的にも物理的にも当てはまる距離感にずっと応援してきた人達が立って輝いている。


 私の席の近くを通るとき、ムービングステージの端っこ。私から一番見える位置に立っていたのは推しの森田涼真で、何度も会っているはずの人のくせに今日だけはいつもと違ってアイドルだった。普段だってオーラを感じるのに、今日はいつも以上だ。


 通り過ぎる際、動いていくステージを見ている私。推しと目があった。そして、口角を上げて微笑んだ。優しくて、それでいて甘い笑顔。それはアイドルとしての表情ではなくて、いつも見ている普段の彼の笑顔。何かを伝えたそうだった。「大丈夫だよ」「今日は楽しんでね」「嫌なことは忘れて」とかそんなことを全部詰め込んだように感じた。

 キラキラのステージ。白く煌びやかなデザインの衣装。そのキレイな顔立ちと醸し出すオーラ。その全てが合わさって手に届かないけど、それでいて近くに寄り添ってくれるような優しさと安心感。それを表現するために“王子様”と言うんだと理解した。

 そのとき、私は気がついた。私は彼が好きだということ。私の人生が1つの物語で私がシンデレラだとすれば、今目の前にいる森田涼真は王子様であって、それでいて魔法使いなんだと。

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