第45話 アイドルとファンの距離
あれから5日が経ってついにライブ当日となった。会場付近にはライブのグッズを持ったファンで溢れかえっていた。男性アイドルということもあって女性が大半だったが男性ファンも珍しくはなく、みんなが生き生きとした表情でその日を楽しんでいる。
「ごめん。お待たせ。」
遠くから晴海さんが小走りで私の方にやってくる。
「全然です。ライブまでまだ時間ありますから慌てなくて大丈夫ですよ。」
「それもそっか。琴葉ちゃん普段はそんな感じなんだ。バイトのときの制服姿しか見たことなかったから新鮮。」
今日着てきたのはブラウンのジャンパースカートに下には白いニットを着ていた。髪はゆるく巻いてできる限りのおしゃれをした。もう12月になったというのにコートがなくても平気で過ごせるぐらい晴れたいい日だった。
「琴葉ちゃんおしゃれだね。周り見てもみんなかわいいな。これがアイドルのライブかぁ。」
晴海さんは周囲にいるファンを見て感心している様子。
「早くグッズ買いに行っちゃいましょう。」
「そうだね。行こう。」
感心しきっている晴海さんに呼びかけて会場に向かって歩いて行く。もうグッズを買い終わったファンが多く集まっていてより一層今日がライブなんだと思わされる。
「ファン多いね。こんなにいるんだ。経済回してるね。」
「ドーム規模だと万単位で集まりますからね。」
「ドームかぁ。こんなときじゃないとなかなか来ないからな。」
「グッズ列ここみたいです。」
柵にくくりつけられた看板にはグッズ購入場所を示していて、列はそんなに長くなかった。
「グッズ列少なくない?みんなもう買ったの?」
「今回、オンライン販売もありましたからね。それにグッズも事前にこんな感じでアプリで選んでQRコード作ってくれるのでかなり効率的です。」
晴海さんに向かってスマホの画面を見せる。そこにはQRコードが出されていて、スタッフはこれを読み込むことでその人が何をどのくらいほしいのかリスト化される。そのおかげで今までは1つずつ言ってスタッフが持ってくるということはなくなった。それに加えて今回は事前決済。そのおかげでお金のやりとりもなくなり、本当に受け取るだけという効率の良さ。また、オンライン販売も並行して行われていたことからわざわざ会場で購入することもなくなり時間にゆとりができた。
「だから、こないだグッズ何欲しいですかって聞いてきたんだ。やっといまわかった。でも、なんでオンラインにしなかったの?」
「オンラインだと送料がかかっちゃうんで。どうせ行くなら並んで買ってもいいかなって。」
「送料ね。何かとかかるからね。」
「結構、複数人で頼んじゃって送料割り勘とかしてたんですけど、その子は別の子と買っちゃったみたいなので頼めなかったってのも理由なんですけど。」
「そんな悲しいこと言わないでよ。今日はせっかくのライブなんだから。」
そんな話をしていればあっという間に自分の番が来てグッズを買っていく。ペンライト2個。タオル2つ。バッグ。パンフレットの4つを購入。横を見たら全種類買っている人がいてさすがに驚いて目が飛び出そうだった。しかも自分よりもずっと年下のようでどこからその財力が出てくるのか教えてほしい。
「あの隣で買ってた子すごかったね。」
「あの子ですよね。凄すぎてちょっと引きました。」
「でも、好きなら買い集めるよね。それぐらいの価値があるんだもん。」
「ですね。私だって来たライブごとにパンフレットとか買ってますし変わらないですね。」
早速買ったバッグにグッズを詰め込んでよりライブが目前まできてることを実感する。
「お昼どうする?このあたりで食べちゃう?」
「ですね。早いけどお昼済ませましょう。混み合うので。」
「だね。どこ見渡してもグッズ持ったファン多くてすごい。これだけ応援してくれてる人がいるってことだよね。すごい。」
「ほんとですよ。私が応援し始めた頃なんてこんな規模でライブするような感じじゃなかったのにいつのまにかこんなに大きくなってました。」
「人気が出るとそう言うこともあるよね。手の届きそうなところにいたのに、どんどん離れていくと言うか。」
「嬉しい反面、悲しくもなります。」
ここ数ヶ月何度も会ってきた。もちろんここにいるファンも隣にいる晴海さんもそんなことは知らない。だからこそアイドルとしては見られないところを見てきた。そのせいでアイドルとしての姿を見ることを楽しみしているけれど、アイドルとファンという差が今日はあるのだと思うと悲しくなった。
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