第44話 余韻

 昨日飲んだお酒の余韻がまだ残っていた。


「琴葉ちゃんどしたの?」

「いや、昨日珍しくお酒飲んだらすごい眠くて。」

「もしかして二日酔い?」

「ですかね。」

 眠いからだを朝から動かしていた。慣れていないお酒の味はまだはっきりと覚えていて、甘いなかにあったアルコールの苦み。これが大人の味と思うとその苦みを美味しいと思えなかった私はまだまだ子どもなのかもしれない。


「ライブもうすぐだね。何も用意してない。」

「私も一緒ですよ。」

 楽しみしているライブはもう目前にまで迫っていて、実感も湧かないまま時間が経つのを待っていた。

「そんなものか。そうだよね。琴葉ちゃん忙しいもんね。」

「いえ、全然。」

「居酒屋でバイト掛け持ちしてるでしょ?今日も夜はそっち行くの?」

「はい。そうしないと家賃とかもろもろ払えないので。それに夜の方が時給いいので稼げるんですよね。」

「ちゃんとそうやって生活してるの偉いわ。それでどう仕事探しは順調?」

 私は静かに首を横に振った。

「全くです。やっぱりブランクあるとダメなんですかね。履歴書で言うと今は空白の期間なわけですし。」

「私から言わせれば20歳そこらから40年分ぐらい空白なしに働くのもおかしいと思うけど。よくない?1年ぐらい間が空いてたっていいじゃないって思うけど、そうも行かないか社会的には。」

「私だって思います。定年まで何十年って働くなら少しぐらい期間空けて休んでてもいいじゃんって。それにアルバイトもパートも働いてることに変わりないしとも思っちゃいます。それでも就職活動してる私って、たぶん社会的な地位が欲しいだけなのかもしれないです。」

「それもそうか。あっ、お客さん。」

 平日の店内に入ってきたお客さんを皮切りに忙しなくバイトとしての労働が始まる。


 バイトをしていても頭のなかはどこか上の空。このままの生活でも成り立っているからこのままフリーターとして生きていこうという考えと就職して安定的な収入を手に入れないとこの先が不安という気持ちとの葛藤があった。そんな考えがいつしか頭をループしていて、それだけで私は疲弊していた。

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