第42話 光と影

「ひっくり返すの上手くない?どう?」

「いや、私の方が上手いよ。見て。めっちゃキレイでしょ。」

「それは負けたわ。まん丸だもん。」

 2人でホットプレートを囲んではひたすらひっくり返していく。 

 目の前には丸いたこ焼きがどんどんできあがりつつあって、香ばしい匂いが食欲をそそる。


「あれ、ここの列って何入れた?」

「なんだっけ?チーズかな?」

「入れたの琴葉だよね?」

「そうだっけ?」


 こんなたわいもない会話も前に比べればラリーが続く。そして、沸々と私のなかでは1つの疑問が思い浮かぶようになっていた。それは私に対して何を思っているのかということ。相手は異性。これ以上のことは全くないし、そんな会話をしたこともない。それはこんな関係になってもアイドルを貫いているのか、ただ単にそんな対象としては見れないのか。確かに私たちの関係はお互いの祖母が知り合いだったところからの派生と考えるとただただ面倒見のいい家族ぐるみの仲とも捉えられるけれど、祖母の知り合いとなると少し遠い関係のような気もする。そもそも自分がこんなにも簡単に異性の家に転がり込んでいるの自体変な話だ。


「琴葉、聞いてる?おーい。」

 目の前で手を降られて我に帰る。

「あ。ごめん。なに?」

「焼けたから食べていいよ。」

「ありがとう。」

 できたてのたこ焼きにソースをかければ今まで感じていた香ばしい香りにプラスして、ソースのスパイシーさが相まって不思議と食欲も増してくる。口に近づけると熱い湯気でどれだけ目の前にあるたこ焼きがどれだけできたてかを思い知る。


「まだ、熱くて食べられないや。」

「そりゃそうだ。だってできたてだよ?慌てずに食べて。」

 目の前でハフハフとたこ焼きを食べる姿を見て今までの疑問ともう1つ浮かび上がってきたことがあった。


「そんなに見てどしたの?」

「いや、人間なんだなって。」

「今まで俺のこと何だと思ってたの?俺だって人間。」


 そうは言われても今までは同じ人間だとは思えなかった。表舞台のキラキラとしたところで毎日活躍する彼とそれを傍から応援するファン。当たり前に舞台にはスポットライトが当たって明るい。一方で見ている側はどちらかというとその影になる場所で見ている。光と影、天と地ぐらいの差があるように思えて、いくらライブに行って本人を見たとしてもそこにいるのはアイドルとしての姿でもはや幻のようにも思えていた。それがいまこうやって目の前で熱々のたこ焼きを頬張っている。何度も目の前でご飯を食べている姿を見てきたはずなのに今日は漠然とそんなことを思っていた。


「まあ、確かに言いたいことはわかるよ。俺は人間。でも、俺の商売は俺自身が商品みたいなもの。」

 その言葉に胸がチクりと痛んだ。それは自分をもののように見ていることに対してどこか悲しくなってしまった。

「それでも楽しいよ。天職だと思ってる。」

「そっか。」

「もう一杯やっちゃおうかな。」

 そう言いながら冷蔵庫から缶ビールを1本取り出してプシュっと開けてごくごくと飲む。

「ぷはぁ。うまい。」

「なんか、おじさんみたい。」

「そんなこと言うなよ。まあ、おじさんなことは否定できないけど。」


 本当はおじさんだなんて思ってない。ただ自分と変わらない人間っぽさを感じていたから冗談で言っただけで、私のなかではいつまでもキラキラしていた。それはアイドルとしても人間としても。

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