王子様と魔法使いの違い

第40話 宝石よりも眩しい

「本日、面接を担当させていただきます。青山です。」

「山口です。本日は貴重なお時間いただきありがとうございます。よろしくお願いします。」


 肌寒さまで感じる時期に私は冷たい空気なんてすぐに通してしまう薄いストッキングを履いていた。

 ふとよみがえるのは「ばあさんの知り合いの西藤さんがやっている会社がお前を受け入れてやってもいいと言ってる。」という父の話。良くも悪くもずっと変わらない。変わろうとしない場所に戻るなんて受け付けられなくて意地になっていた。


「実家はこちらではないようですが、ご家族は県外で就職することについて何か言っていますか?」

 反対しているなんてことは口が裂けても言えなくて、母のみの意見を貫いて話す。

「両親は応援してくれています。」

「反対されたりはしていないと言うことですね?」

「はい。」

 なんとか乗り越えたものの上手くごまかせていたのかは謎だ。


 淡々と進んでいく面接。これもこの数週間で何回も繰り返してきたことだった。正直、結果が着いてきたかと言われるとそうではなく変わらずバイト生活。それでも頑張ろうと思えたのはもうすぐライブと言う楽しみがあるからということと、それとも父の、祖母の言いなりになんてなりたくないと言う意地が私を奮い立たせていた。


「卒業して半年以上経っていますが、この期間は何をされていたのですか?」

「新卒として就職活動はされなかったのでしょうか?」

「どうして就職活動を再開しようと思ったのですか?」

 どの質問もどこでも口酸っぱく聞かれたこと。新卒の就職活動を振り返っても何が行けないのかというのはよくわからなくて、単純に恵まれなかったように感じていた。


 圧迫された面接、選考を促しておいての面接にも通されない、選考の中止、面接の中断。そんなことばかり繰り返していた私の新卒での就職活動は私が本当に悪いのかと思いたくなるほどだったが、それでも私の実力不足だったことを自負していくしかできなかった。


「はい。今日の結果につきましては1週間以内に返事をしますのでそれまでお待ちください。今日はありがとうございました。」


 淡々とした面接は終わり、近くの自動販売機でホットドリンクを買いベンチで冷たくなった風を頬で感じた。

 視線を落とせば膝のあたりが伝線していてそこを指でなぞる。それ以外にもよく見れば全体的に怪しい箇所は何個もあってもう限界を迎えていることが目に見えてわかる。新しいストッキングを買い足さなければならないとまだ暖かいペットボトルを片手に歩き出した。


 スマホを見れば新しい投稿の山で、大学であれだけ仲良かった友達とも疎遠になり、今となっては誰とも連絡を取り合わなくなった。そしてSNSで近況を知る。金曜日になれば華金、連休となればどこかしらに出かけている投稿を見ては自分が虚しくなる。今の私は何十年とある人生において若くて、健康的で、体力があって、ある意味キレイな時期。それなのに誰にも会わない。誰とも会えない。仕事も恋もない私が虚しくて仕方がなかった。それを埋めるかのように推し活に没頭していた。それでもそれは楽しくて仕方がなかったけれど、自分の年齢を考えると葛藤も少なからずあったし、こうしている間にも同級生は社会人として働いているし、家庭を持っている人もいる。そう考えるとどれだけ私が周りから置いて行かれているか嫌でもわかってしまうほどの時期になっていた。


 近くにあった商業施設に足を踏み入れ、流れるBGMに咄嗟に反応した。この前、発売されたばかりのDREAMERSの楽曲でこういうところだけ瞬時に反応できたし、周りの音にかき消されてはっきりは聞こえないけれどそれでも嬉しかった。こんな些細なことでも喜びを感じられるならまだ大丈夫と思い込んでいた。


 目の前にはずらりと靴下やストッキングが並び、これから本格化してくるであろう寒さに備えてなのかタイツも種類豊富だった。

 3組セットで一番安いものを2つ手に取った。安いとはいってもこれまでこの就職活動のためになんども買い直した。薄いし、すぐに引っかかっては伝線しては捨てて買い直していた。あとこのストッキングもどのくらい買い直したらいいのだろうか。

「お買い上げありがとうございました。」

 持っていたリクルートバッグに入れ込み、せっかくならと歩き回ってみる。気づけばかかっていたBGMも全く別の曲になっていた。

 目に付いたのはジュエリーショップで小さいながらも輝きを放つ宝石が眩しく並んでいた。目を惹く美しさとは裏腹に頭の中ではみんなのSNSの投稿がちらつく。この歳にもなればお付き合いということもあったりして、誕生日や記念日なんかにこんなネックレスをプレゼントしてもらったとか婚約指輪だとかそんな投稿が頭をちらつかせた。でも、私はそんなことは1つもない。憧れは少なくともあって、いつか自分にもと思うことはあった。だから、こういうのをプレゼントしてくれるような素敵な人は現れるのだろうかとそんな疑問が頭に浮かび、きっと今のままだとそんな王子様みたいな人は現れないと自問自答をしていた。

 その店に入っている客を見れば付き合っているのか男女の2人組で嬉しそうに試着していて、頭によぎるものも目に入る全ての物が私には宝石よりも輝いて見えた。

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