第38話 好きの魔法
「ごめんなさい。お騒がせして。」
「いや、いいんだよ。そっか古い考えだとジェネレーションギャップって言うの?やっぱりあるよね。」
「ですね。」
「お母さんはなんて言ってるの?」
「お母さんは自由主義って感じで。基本的には好きにすればいいって感じです。でも、やっぱり嫁いできた身だからか父方のほうの考えには逆らえないって言うか。」
「やっぱそう言うのあるよね。多少は。琴葉ちゃんの地元って結構地方なんだっけ?」
「はい。一応生活には最低限困らない程度には充実した街ですけど、田舎ですね。」
「まあ、そんなところだと人間関係は濃くなっちゃうよな。その場所で生活したことしかない人にとっては外からその世界を見ることはないからそれが当たり前になっちゃうし、琴葉ちゃんはその点ナイスだね。ちゃんと外から見て判断して今の生活選んだんだから。自信持ちな。」
いきなり話に割り込んできた柏野さん。私に右手で親指を立てながら話してくる柏野さんを真似て、隣の晴海さんも親指を立ててグッドサイン。
「そうだよ。琴葉ちゃん。琴葉ちゃんはすごい。ちゃんと1人でここまで生活してきたんだから。偉いよ。偉い。」
「そうだ。もう今日は奮発して、パン好きなだけ持って帰っていいから。もうどんどん持って行って。」
「1人なんでそんなに持っていっても食べきれないですって。」
そうやって笑い合っているとポケットに入っていたスマホが震えて確認すると、1通の通知が来ていた。確認すると真菜からの連絡だった。開くと結婚しましたという文章と仲良く2人で婚約指輪を付けて撮られた写真だった。嬉しい反面、また1人に置いていかれたという複雑な気持ちになる。そして何よりさっきまで口酸っぱく言われてしまっていたことだったからタイムリーすぎて素直に喜べない。
「どうしたの?」
「いや、地元の友達で唯一連絡取り合っていた友達が結婚したって報告してきて。」
「マジ?琴葉ちゃんまだ22だよね?みんな結婚早くない?」
「田舎だと楽しみは1つですよ。人付き合いぐらいです。娯楽少ないんで。」
「なるほど。周りがそうだと琴葉ちゃんが孤立感じるのもわかるわ。結婚しちゃうとどうしても家族にってなるし。まあ、私もそうだけど。必然的に離れちゃうって言うか。自然消滅って言うの?私はもう周りがそうだし、気にならなくなったけど、琴葉ちゃんの年齢だと世間的には結婚してない人も多いからなおさら孤立感は感じるかもね。」
さすがに察しは早くて私の説明なんていらない。晩婚化と言われている今の時代でも結婚があたりまえ。それは周りがそうやって結婚していく。だからそんなことが問題になっていても関係ないように感じてしまう。だから、それができないのは地元だと変な子であって、少数派になる。ただでさえ少なくて濃い人間関係で浮いていくともう馴染めないような感じがする。その点、この場所は人が多い分いろんな人がいる。私の生き方をしている人だってたくさんいる。だから、浮かないし、誰も気にしない。それが今の私にとっては快適な場所であることには間違いなかった。
「まあ、焦んないでよ。今のご時世結婚しない人もたくさんいるしさ。私の周りだって結婚してない人たくさんいるし、結婚したくないって人もいる。いろんな幸せの形があるよ。さあ、仕事仕事。ライブのために頑張らないとね。」
晴海さんの言うとおりで私には推し活がある。そして今夜から発表されていたドラマが放送開始でライブの前にもいろいろと楽しみがある。その楽しみのためにいろんなことを乗り越えるための活力にする。だから頑張れる。だから好き。
推しは好き。でも、恋の好きとは違うものではあったけれど好きであることに変わりはない。そうやって私は何かの“好き”を続ける。その“好き”はある意味私にとっての魔法のようなものなのかもしれない。
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