第33話 人間味のあるアイドル
結局ご飯も美味しくいただき、ゲームまでちゃっかり一緒にやってなんだかんだ楽しい時間を過ごしているとすっかりと夜更けになっていた。
「どう?楽しかった?」
一通り終わるとそう聞かれた。この数時間を思い返しても嫌だったことはすっかり忘れていて、推しが目の前にいることだって忘れかけていた。
「楽しかったです。ありがとうございました。」
自分のなかではわかっていた。目の前にいるのは紛れもなくアイドルで私の推し。なのにその推しとしては見ていないということに。
「それならよかった。楽しそうだったもんね。ゲームしてるときとかガチだったじゃん。」
「ゲームはゲームですから。それが醍醐味じゃないですか。」
「その顔が見れてよかったよ。なんだ笑顔かわいいじゃん。」
初めて気がついた。自分が素直に笑えているということに。それぐらいこの時間が楽しかったんだ。
「たまにはこういうのもいいでしょ。何も考えずに食べて、話して、ゲームして。笑えていればそれで人生勝ちみたいなもん。笑えるって幸せじゃん?」
笑顔って最強の魔法みたいなものと言ったとき妙に納得した。どんなことがあっても人前で笑顔を絶やさない職業だからこその重みもあった。でも、その笑顔で救われてきた人がこの世界に何人もいるし、その1人は間違いなく私だった。
「誰かと同じ時間を共有するって最高でしょ。俺は仕事柄グループで活躍するからなんでも共有しちゃうけどね。でも、世の中って1人で戦わなきゃ行けないときもある。誰かが一緒に背負ってくれたら楽でしょ?だから、1人で背負わないで。誰かに甘えればいいの。」
思い返せば何だって1人だった。就職活動で躓いたとき、誰にも相談できずに1人で泣いた。大学を卒業して地元に帰ったとき、誰にもその苦しみを理解してもらえなくて抱え込んだ。そして、今日。また躓いて1人で抱え込もうとした。ただ、1つ違ったことは自分から誰かに頼ろうとしたこと。その結果が嫌なことも忘れて、推しであることも忘れて、勇気をだしてここに来て正解だった。だって、こんなにも楽しい時間を過ごして、苦しみを消し去ってくれていつまでも私は推しに救われる。
「また、今日みたいなだらだらした日を過ごそう。俺だってこういう日過ごしたいんだもん。」
アイドルとオタクでありつつ、友達同士という不思議な関係になったがアイドルとしてではなく見ていたのでそれでも正解だったと思う。
初めてアイドルの人間らしい瞬間を見た日になった。
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