第29話 失意の中の一瞬の光

 スマホを開くと1通のメールが届いていた。先日選考を受けた会社からのメールで緊張とどこかワクワクした気持ちでメールを開いた。


 下まで読み進めると“厳選なる選考の結果”とありその続きに目をやると“誠に残念ではございますが、今回はご希望に添いかねる結果となりました。”そう書かれていた。


「なんで。」


 最初に出た一言目がこれだった。さっきまでライブも決まってやっと推しに会えると興奮して、最終面接まで辿り着いたと思って嬉しかった気持ちは一瞬で消え去った。

 同じタイミングで受けていた人と間違えて結果を伝えてしまったということのようで、さすがにそのミスはいかがなものなのかと未熟ながらに感じる。

 最終面接の中止。これが私には重たくて仕方なかった。中止なら落とされる方がましだと。でも、中止されたのはこれが初めてではなく、これが2度目だと思うと私はとことんついていない。中止させるぐらいの企業なら行かなくてよかったとも思えるけれど、そこにかけた労力は帰ってこない。


 ため息が出る。そう甘くない現実だと言うことはわかっているけれどここまで来ると一体どこで求められるのだろうかと不安になる。


 最後の行には“今後のご活躍をお祈り申し上げます”とあり。この文章も何度も見てきた。ここまで祈られてしまうと、もはや自分は神様なんじゃないかと思ってくる。でも、私は神ではないし、活躍を祈られたって活躍する場所がない。


 また振り出しに戻って、スーツを着て、ストッキングにヒール。髪の毛はきっちりまとめあげるスタイルを貫かなくちゃいけないみたいだ。もう何度も伝染したり、破れたりで買い直したストッキングに、学生時代にプロに撮影してもらった写真を何度使い回したかわからない。ただ、そこにかかったお金は戻ってこない。きっと私が仕事に就く頃には就活に使った額はとんでもない額になるだろう。


 就職活動を初めて2年。卒業してからも何社も受けてきた。でも、その結果がこれ。今までまともに生きてきたのに、一度道を逸れると立ち直ることは許されていないように感じる。

 今回だってそうだ。やっとの思いで最終面接までこぎつけたし、対策だってしてきてこの結果。もう目の前にあった目標は一瞬にして塵になった。


 ここまで何度も落ちると自分が嫌いになる。誰からも認められない。いわば私は企業から見れば一種の商品みたいなもので私はもう完全なる売れ残りで割り引きシールを貼られても誰にも買われない。ただただ処分されるのを待つしかないスーパーの食材になった気分だ。


 さっきまでが楽しかったから、嬉しかったからその分のショックが大きすぎてもうダメだ。もう耐えられない。もう解放されたくて仕方なくて、逃げたかった。やっと地元からは離れられた。いいバイト先にも出会って、いい人にも出会って、ひょんなことから推しにも遭遇した。楽しかったけれど、それを上回るぐらい不安と焦燥感が襲った。


 頑張っていれば、きちんと日々の行いを積めばいつか誰かに認められてハッピーエンドで終わると思っていた。それはシンデレラの物語でも同じだったように。でも、私はシンデレラになる素質はないみたいだ。義理の母やお姉さんにいじめられる日常しか訪れないシンデレラで舞踏会に招待されることも、魔法使いが出て来て力を貸してくれることも、王子様が現れることもないまま終わってしまうのかもと思うとシンデレラとはほど遠いエンディングを迎えてしまいそうだ。


 私は無意識に開けることのなかった引き出しを開けてペーパーナプキンの番号に電話をかけた。別になんのためらいもなかった。誰かにすがりたかっただけ。

 1つずつ数字を押して、耳に当ててみる。この時間なら仕事かなと思いつつ、もし出なかったら外に飛び出そう。そしたら気分転換になるだろうなんてことを考えながらひたすら待ち続けた。

 しばらくかけ続けたが出る気配はなくて、もう切ろうとした。


「はい。森田です。」


 半ば諦めていたところ聞こえたのは推しの声ではっとして焦る。私、なんで電話をかけてしまったのかと。


「もしもし。どちら様ですか。」

 電話越しでは誰かを確認しようとする声が聞こえて、やっと口を開いた。


「あの、山口です。」

 私は一体どんな声で話せただろうか。きっと普段通りではないし、明るくもない。そんな声が私の口から出た。


「どうしたの?」

「その。えっと。」

 自分からかけたくせに何も言い出せなくなってしまった。

「ショートメールに送った場所に来られる?」

 そう言われて確認すると確かに新着のメッセージが来ていて、しっかりとマップのリンクが張られていた。

「待ってるから。」


 消えそうな声で返事をして、スマホだけを手に家を出た。

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