第28話 動き始め

「ありがとうございます。ぜひ、よろしくお願いします。」

 あれから1週間が経って、面接の結果が届いた。特にやりたいことがあったわけではないけれど、なんとか最終面接の通知を貰い。バイトの掛け持ちでなんとかここまできた。周りからは遅れをとったが今回は上手くいきそうとなぜか自信があった。


「面接通ったの!おめでとう!」

「ありがとうございます!」

「でも、ここ辞めちゃうの寂しいな。」

「まだ決まってませんから。それに次通らないとまた振り出しに戻ります。」

 この時間のこの会話を密かな楽しみにしつつバイトを楽しんでいた。


「私も寂しいです。バイト辞めちゃうの。でも早く決まって欲しい気持ちもあって。」

「そうだよね。焦るよね。こういうの。」

「はい。それに、祖母に家がバレちゃって。」

「ええ!実家って結構遠いんじゃないの?」

「遠いですよ。でも、なぜかめっちゃ顔広くて、どこからか情報嗅ぎつけて遙々やって来たみたいです。困っちゃいますね。本当。パパラッチの才能には秀でそうですけど。」

「誰かに言ってた?そこに住んでるって。」

「誰にも言ってないですね。母にはなんとなく伝えましたけど、父と母はちょっと言い空気感ではないし、祖母と母なんてもっとです。」

「逆に尊敬するわ。その情報網。」

「本当ですよね。そう言う情報だけは上手いことかき集めるから。」


 そんな会話を繰り広げているとスマホの通知が鳴った。開いてみるとDREAMERSとして東京ドーム公演が決定したことを知らせるものだった。

「え!」

 思わず大きな声が出てしまい、晴海さん驚かせてしまった。

「どしたの?そんな大きな声だして。」

「ライブ決まりました!嬉しい!」

「DREAMERSの?」

「そうです!この秋からのツアーは外れちゃったんで行けなかったけど、今回は行きたいです!」

「よかったじゃん!」

 2人で大はしゃぎ。こうやって笑ったのいつぶりだろうか。


「いいなぁ。ライブか。」

「一緒に行きます?」

「え?いいの?」

「もともとずっと一緒に行ってたオタク友達がいたんですけど、就職した会社でたまたま好きな子を見つけたみたいで。行く人いないんですよね。」

「そっか。」

「私は外れて、その友達は当たってました。もうなんかモヤモヤします。」

「そうなら早く言ってよ!私もちょっと気になってたんだよね。だから、ぜひ一緒に!何したらいい?やっぱ団扇とか作る?何聞いたらいい?」

 久しぶりだこんな感覚。今までこうやって一緒にオタクしてくれた友達がいてはしゃいだもの。でも、その友達も離れて、推し活を馬鹿にされていた。だから、こうやって好きを全面に出せるのはたまらなく楽しい。

「アルバム主体だと思うので、動画投稿されているのでぜひそれ見てください!めっちゃいいです。振り幅の広さ感動しますよ。」

「好きなことになると饒舌だね。琴葉ちゃん。」

「そうですか。」

 ああ、今すごい楽しい。心からそう思えた。でも、そのあとに来ていた1件の連絡に気がつかずにただただはしゃいだ。

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