第23話 希薄な関係

「どうしたの?なんか浮かない顔だね。」


 平日の空いたパン屋で晴海さんに顔を覗かれる。そこで私は話してみようと思い話始めた。


「実は今度、中学の同窓会があるみたいでその連絡が来てないことを知ってしまって。」

「中学かぁ。結構前だから疎遠になることもあるし、そんなのあるあるだよ。」


「ただ、私の同級生ってほぼ幼馴染みしかいなくて。みんな小学校から高校まで一緒な人ばかりなんです。高校の同級生も先輩も後輩も8割ぐらい同じ中学でしたし。もっと長いと保育園とか幼稚園から一緒なんで軽く15年は一緒に過ごしましたと思います。」

「そんなの羨ましい。私、いないんだよね。小学校は小学校、中学は中学、高校は高校って感じで友達いたから卒業したら自然と疎遠になったし、今も付き合いある人なんていないなぁ。それだけ付き合いが長いとめっちゃ仲いいでしょ。」

「いや、それがそうでもなくて。誰とも連絡取ってないんですよ。」

 そう言うと晴海さんは驚いた顔をした。


「ええ。そんなもんなの?」

「私が変なだけかもしれないです。晴海さんと一緒です。私も小学校は小学校。中学は中学。高校は高校で友達がいて自然に疎遠になっていく。でも、みんなは違って、なんて言うか付け足されていく?」

「付け足されていく?」


「自然消滅はしない。ただ、そこで出会った人が増えていくだけで付き合いは消えないって感じですかね。」

「なるほど。それぞれで新しく友達はできるけど、前の付き合いがなくなっていくことはないのね。」

「はい。でも、私はそんな人いなくて。周りは地元帰ってきたり、出て行った先で会ったり頻繁にしてて、私はそんなことしたことなかったんですよ。地元の大学じゃなかったし、離れたところにいたし、そんなもんかと思ってたんですけど。卒業して地元に一度引っ込んでやっとわかりました。みんなは離れてもその関係がずっと続いていくから地元に戻ってきても、戻ってこなくてもいい関係が長く続く。今回でそれがわかりましたね。きっと他にも同じような人は知らないまま同窓会の日になるかもしれないです。長い付き合いがあるのにそこまでの関係になれない私は馴染めていなかったんだってことに初めて気がつきましたし、地元にいて感じていた孤独感はそこが原因なのかなって思いました。」


 話し終えると静寂の間ができて、ちょっと気まずくなったので慌てて訂正する。

「いや、別に行きたいわけじゃないです。ただ、連絡ぐらいほしかったって話です。誰が悪いとかそんなことないですし、怒ってるわけじゃないですから!私だってもうそこそこの年齢でそんな子どもみたいなこと思ってないですから!」

「わかってるよ。そんなこと。そっか、そんなもんなのか。幼馴染みって。」

「そんなもんでは無いと思いますけど。私は多分多すぎるんですよ。そういう人が。ただただ長く一緒に過ごしただけでそれなりにお互いを知ってはいるけど、それ以上の関係はない。それってなんか嫌ですよね。大して仲いいわけでもないのに、私のことだけがとりあえずいろいろ知られてる関係って。」


「でもさ、誰かが教えてくれたから知ってるんでしょ?同窓会開かれることを。」

「まあ、中学と高校で一緒だった子で唯一連絡を取ってる子がいて、その子から聞きました。」

「その子から聞いたならよかったじゃん。ちゃんと連絡来てるよ。」

「そうなんですけど、本当は小学校単位で連絡が来て、その単位で出欠席をとるんです。その子は小学校は別ですし、もっと言えば中学からの転校生で。私、ずっと地元に住んでたはずなのに、小学校の同級生なんてみんなずっと一緒に過ごしてきたはずなのになんで私は連絡来ないのかなって思って。もしかして嫌われてたりするんですかね?それとも誰とも今付き合いがある人がいないから忘れられてしまったのかとか思うとちょっとばかり落ち込みます。」

「確かにそれは落ち込むかも。ずっと一緒に過ごしてきたのに、ここに来て急にこれならちょっとね。悪気はないのかもしれないし、今の時代簡単に連絡取り合えるからなおさらかも、だからこそ希薄な関係も続くのかもだけど。」


 全部吹き終わったお盆を所定の位置に晴海さんはお盆を運び、私はトングを持って引っかけていった。それでも話す口は止まらない。


「それで行くの?同窓会。」

「いや、ちょっと行く気なくしました。いろいろ考えちゃって。」

「それもそっか。そうだよね。わざと連絡を回してないのかもとも捉えられるし、もしそうなら『なんで来たの?なんで知ってるの?』ともなると気まずいか。悪気はないとしても、あまりいい印象はないか。」

「それに逃げるようにこっちに来たので、顔向けもできないってことも追加で。」


 私はこの街に来て変わった気がする。もっと自分に素直になれた。こうやって私の話を面と向かって聞いてくれるし、それを「そんなことない。考えすぎ。」と片付けられることもない。ちゃんと理解して、ちゃんと聞いて、考えて受け止めてくれる。その関係を知ってしまったら、この世界はなんて自由なんだろうとそう思った。

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