第15話 まだ若い

 14時に終わって今日は15時から面接だ。


 家にいながらエアコンもない部屋で無理矢理スーツを着る。もちろん扇風機はフル稼働。スーツの下は保冷剤で冷やす。本当は涼しい部屋でやりたいが、リビングは人の出入りが激しいし、妹の部屋は夏休みで妹が籠もっているので使えない。暑くてもここでやるしかない。


 パソコンを開いてオンライン面接に向けて待機している。ずっとぐるぐるしている画面の中央を見ながら、今日は上手くいきますようにと祈る。時間になったのか急に画面は会社の人事らしき人が映し出された。急いでカメラとマイクをオンにして会話をする。


「はじめまして。聞こえていますでしょうか?」

「はい。聞こえています。では、時間になりましたので始めていきます。今回、面接を担当させていただきます。松倉と言います。お願いします。」

「こちらこそお願いします。」

「では、まず自己紹介をお願いします。」

「はい。山口琴葉と申します。私は学生時代に―。」

 もう何度も言ってきた自己紹介をする。画面のなかの人は50代ぐらいの男性だ。気難しい顔をしながら私の話を聞いている。


「へぇ、吹奏楽部で全国大会出場の経験もあるのね。すごいじゃない。」

「いえ、それほどれもないです。」

「大変だったでしょう。練習も厳しかった。」

「大変でしたが、みんなで1つの曲を作り上げたときは達成感も大きかったのでその分楽しさや嬉しさも大きかったです。」


「そう。えっと履歴書だと大学を今年卒業したみたいだけど新卒として就職活動をしなかった理由はある?」

 その質問にドキッとした。自然に拳に力が入っていくのがわかる。新卒として就職活動は散々した。でも、どこも私を受け入れてくれない。もう何を言ってもダメなんだ。

「新卒として就職活動を行ってきました。ですが、心身のバランスを考えて断念いたしました。」

 こんなこと言ったら絶対落ちるなと思いながら話し続ける。心身のバランスを崩したことは事実。何社も受けていく間に自分が嫌いになって、自分を認められなくなった。そこに相談してもこれといった的を得たアドバイスはもらえなくて、「何がダメなんだろうね」と言われて終わった。友達にも恥ずかしくて就職が決まらないことを言えずにいた。


「そうなのね。って言うか若いからうちじゃなくていいじゃない。」

 まただ。これも何度言われただろう。今日の面接は地元にある会社の事務だ。地元の会社だと絶対こう言われる。


「若いうちは可能性を求めてもっと広いところに飛び込んだほうがいいよ。採用するときに何を見てると思う?」

「人柄や経験などでしょうか?」

「それもそう。成長を見込める人が欲しいわけ。君は若いから成長は見込めるけど、経験はないわけでしょ?もっと多くのこと経験してからうちにおいでよ。それでも遅くないから。」

「はい。」

 何を答えていいかわからなくてとりあえず返事だけをした。


「最後になにか質問ある?」

 そんなことを言われて聞きたいことなんかない。だからもう終わらせようとした。

「私からは以上で大丈夫です。」

「じゃあ、結果は後日で1週間以内には返事を出します。今日はありがとうございました。」

「こちらこそありがとうございました。失礼いたします。」


 逃げ出すかのように退出ボタンを押し、泣いた。

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