第14話 悪いことと楽しみ

 今日も朝からバイトだった。10時からのオープンに合わせて10分ぐらい前に着くようにいく。

 開店前の準備はレジ合わせだけですぐに終わる。10時からオープンだと言うのに店内は数人のお客さんが入っている。いつもの常連ばかりだ。

「まだか?もう10時だろ。」

 切れ気味に言われるが店内にある時計は五分ほど早く、実際はまだオープンではないのでそのままスルー。

「どうなってんだこの店は。もう10時だろって。」

「ちゃんとしてくれよ。なんで店開けてんだよ。」

 そんな声も聞こえてくる。確かに店の鍵は社員が来た際に開けるため10時より早く開く。看板まで出して入らないようにと注意しているが勝手に入ってくるのだ。それももうわかりきったことなのでみんなその辺はスルーしている。


 この時間帯に入ればいつものこと。店内の放送は時間になるとオープンの放送が入るのでそれに合わせてレジを開ける。

「お待たせしました。いらっしゃいませ。」

 そう言いながらロボットのように商品をレジに通し、お会計をする。

「もう10時だっただろ。なんでレジしてくれないんだ。」

 そう罵倒されても「すみません。」としか言わない。ここで変に反論すれば火に油だってことはわかっているから。

「こちら商品になります。ありがとうございました。いらっしゃいませ。」

「ったく。おっせぇな。」

 今日はいつにも増して客が多い気がする。そのせいかイライラしている人も多くその矛先は店番の私に全部回ってくる。


 丁寧な接客をしていても舌打ちはあるし、変な言いがかりをつけられることも多々ある。社員は慣れだと言ってくるけれどさすがに慣れはしない。嫌なものは嫌だ。

 波を越えるとまた何もない時間がやって来る。たった1人で店番をするだけ。あとは隣接されたカフェの受付ぐらい。


「いらっしゃいませ。」

 そのままスルーして行きそうになる。この店では隣接されたカフェに行くにはまずこのレジで番号札を出す必要がある。それを知らずしてスルーしていく人は多い。

「すみません。カフェのご利用ですか?」

「ああ、はい。」

「こちらで番号札出しますので来ていただけますでしょうか?」

 そう言うと訪れた客は必ず面倒な顔をする。私だって面倒だと思っている。

「1組あたり90分を目安のご利用時間とさせていただいております。こちらの番号札はお帰りになる際にこちらに戻してください。ごゆっくりどうぞ。」

 そして番号と何人の客だったかをメモする。このメモで人数を把握する。定員は30人なのでそれに近くなるとカフェの来店をストップさせないといけない。それも私の仕事。一応、看板にも必ずレジに来て番号札を受け取るように書かれているがあまり効果がない。特にレジ作業をしているときは私も気がつかないで勝手に行ってしまう人もいるので1人でこなすにはなかなかのハードさ。でも、2人を配置するほどの業務量ではないので1人だけで店番をする。


 ずっと静寂で1人。ニートになるわけにもいかないと思い始めた。最初は少なくとも収入があることは安心材料だったが周りとの差を感じて劣等感が出て来た。


 でも、これも推しのため。ライブに行って、グッズを買って自分が楽しむのに使う。今はそれさえできれば良い。そのために何だって頑張れるのだ。

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