第8話 電話
結局、ホテルに着くまで何も話さなかった。もうこれっきりの関係だ。これ以上にはならない。もう推しとオタクと言う関係に戻ったんだ。私はそっと見守っているだけでいい。
ホテルに着いて一気にどっと疲れが出てスマホを見ればまだ20時になったばかりだった。
いや、これは夢。たぶん目が覚めれば全部夢だしたで終わる。それか12時になったら解ける魔法。シンデレラのようにドレスも馬車もネズミたちも元に戻るように、私の生活だってこんなことなかったかのようになる。絶対に嘘だ。
スマホの画面だけを見ながら独り言を呟く。すると真菜から電話がかかってきて迷わずに出た。
「やっと出た。早く聞きたくてうずうずしてたのに。」
そう言われて確認すると既に3回電話がかかってきていたことに今気がつく。
「ごめんごめん。やっとホテル帰ってきたところだから。」
「そう言うことね。でどうだった?」
「何か堅苦しくて途中で逃げ出してきた。それに予定入ったからって代理の人が来て、それが男の人だったのね。それでばあちゃんも何か必死て言うか。」
「うわぁ。琴葉のばあちゃん早く結婚してぐらいしか考えてなさそうだし。」
「そんなものでしょ。こんな年齢だし、私しか孫いないし。」
「確かにね。特に祖父母世代は跡取りとかしか考えてない。家もそうだった。弟は絶対手放さないからなみたいな感じ出まくってたし。そんななか私は地元離れて快適よ。」
羨ましい。私だってそうだった。1人でも大丈夫、誰にも干渉されたくない。そんな一心で出て行ったはず。でも、就職も決まらず住むところの家賃さえままならなくて帰ってきた惨めさを感じる。私には地元にとどまっておけという何かのメッセージなのかとも思わされる。
「で?その代理で来た人はどうだった?芸能人なら誰に似てる?」
誰に似てる以前に本人だ。間違いなくテレビで見てた、ずっと推していたアイドルの名前。しかも、真菜は私がそのグループを好きなことをしっているから、そんなこと口が裂けても言えない。やんわりごまかしておく。
「アイドル系?世間的に言ったらかわいい系かな。」
「ほう。いいねそれ。で年齢は身長は?」
年齢も身長も聞いてない。でも、もう公表済みのプロフィール。そのプロフィール通りに話しておく。
「年齢は7個上?今年30になるって言ってたから8個かな?」
「まあまあ、離れてるね。私だったらなしかな。まあ結局は人によるけど。年上がいいけど、2個か3個ぐらいが理想。」
「確かにちょっと離れてるね。」
「で、身長は?高い?」
推しは公式のプロフィールとしては165センチ。男性としてもグループ内でも小柄な方。そのかわいらしいルックスと小柄な見た目もあってかわいい系も確立しているし、弟的な立場だ。でも、身長149センチしかない私にとってはもっと大きく見えた。だから、実際に並んでみて自分より上にある目線に少し男らしさを感じてしまったことに間違いはない。
「165ぐらい?わかんない。座ってたし、立って並んだわけじゃないから。パッと見ね。」
「結構小さい?年齢8個差に身長160センチ代かぁ。私ならなしだな。」
「いや、彼氏いるから真菜は関係ないでしょ。」
「まあね。もう来月で3年半。やばいよね。」
とにかく彼氏とラブラブな真菜。彼氏は2つ上の社会人のようで、いつも電話をかけてきてはのろけ話を聞くのが私の役割。
「未だにラブラブだね。」
「もう早く結婚したい。もう今すぐにでも同棲したい。」
結婚願望は強い。口を開けばこればっかりだ。同棲はしていないものの半同棲のようでかなりの頻度で一人暮らしをしている真菜の家にやって来る。
「あっ。彼氏来たから切るね。じゃあ、また。」
電話を切ればすぐに静寂に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます