第3話 唯一の楽しみ
就職も決まらないまま卒業となり、荷物をまとめてとぼとぼを地元に帰った。
久しぶりに帰った地元は何もなかった。今まであった店も潰れていた。友達も地元を離れていった。残っていた友達も結婚。人によっては子どもまでいた。そのなかで帰ってきた私は完全に孤立。
既卒として仕事も探した。仕方なく地元で探すもののこんな小さな町。正直、田舎のこの町は古い考えも多かった。
「まだ若いからここじゃなくてもいいでしょ。もっと可能性を見て。」
「女なんてどうせ結婚して辞めていくだろ?いらない。」
そんなことを言われることも珍しくなかった。まだ若いから。女だから。そんな理由がこの町の仕事は私を受け入れてくれなかった。
せめてバイトはしようと思い近所にあった店のレジ打ちバイトを始めた。大学を卒業して3ヶ月目に入った6月のこと。
SNSで見るみんなの様子は楽しそうだった。休みの日は友達や彼氏とお出かけ。一人でも満喫する様子がそこにはあった。
私はそんなもの1つもなかった。車もなければどこにも行けないこの町でどこにも行けなかった。もちろん仕事もない。初任給、ボーナスそんなものは夢のまた夢。入社式も内定式も経験しなかった。嫌なことがあったときに行っていた映画も展覧会もこの辺りにはなく行くことはない。だから、発散する場所がなく自分のなかで沸々と湧いていた。
そんな気持ちを静めてくれたのは推しだ。
中学1年生のときたまたま見たドラマの主演だった人に妙に惹かれた。検索するとアイドルグループDREAMERSの森田涼真。世間では美少年と言われていたが、私は顔なんてどうでもよくて何かが私をすごく惹きつけた。この世の中にこんなにキラキラした人がいるのだと思い知った。
次第にそのグループを追うようになり、ファンクラブにも入会。大学生になって初めてライブにも行った。そして、推しになった。
推しを見ているときは嫌なことでも一瞬は忘れられた。だから、私にとって推しは神だ。
推しは裏切らない。どんなときも輝いていて、いつでも愛を感じられた。その分、大変なものではあると思う。特にアイドルは。
だから、推しのために今日も頑張った。明日も推しのために頑張るのだ。
推し活が私にとって唯一の楽しみになった。
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