第2話 生まれ育った町と拭えないイメージ

 私はずっとこの町で育った。


 生まれたとき。私は山口家の待望の長女として誕生。父が一人っ子と言うこともあって親戚のなかで唯一の子どもとなったそれはもう可愛がられた。


 幼稚園。3月生まれの体格は周りと比べて小さかった。でも、それ以外全く問題なし。むしろ小さい頃の月齢による成長、発達は差が大きいがその辺も体格が小さいこと以外は全く差がない子どもだった。だから、周りの大人には「凄い」と褒められた。

 この頃、初めて抱いた夢はシンデレラになること。別にドレスが着たいわけでも、煌びやかな世界に憧れていたわけでもないけど妙に惹かれていた。理由はあまり覚えていない。


 小学校。入学当初、尋常じゃないぐらいに可愛がられる。校舎をあるけばアイドルさながらで、手を振り替えしては上級生のお姉さん、お兄さんに「かわいい」と言われる。学校生活はと言うと、勉強も運動もそこそこで特別優秀と言うわけではなかったが家で宿題以外の勉強はしないくせにいい成績だった。


 中学校。吹奏楽部に入学。中学2年生と3年生では全国大会に出場。地元の新聞、フリー雑誌、テレビなどにも取り上げられた。その分練習は忙しく、休みはほぼなし。言い訳にしたくはないが、勉強なんて疎かになっていた。家で教科書なんて開かない。宿題だけはきちんと提出。そんな生活でも成績はそこそこで上位25%ぐらいには入っていた。


 高校。ここでも吹奏楽を続行。入学した高校は生徒のほとんどが同じ中学出身者。私もその一人だった。当時入部した吹奏楽部の部員もほとんどが中学でも一緒に活動していた部員で、そのおかげなのか高校でも優秀な成績をバンバン収めていた。勉強は得意ではなかったが特進クラス。1科目だけなら偏差値70以上もたたき出したことがあるぐらいでまあ優秀だった。

 結局、中高の6年間でかなりの大会に出場して金賞を受賞するほどの実力があるところでバリバリ頑張っていた。


 大学受験を考え始めたとき、どうしても県外に出たい欲が強くなった。それは周りが知っている人しかいないことをなぜか急に恐れていた。

 知らない同世代を最後に話したのはいつなのかと考えたとき、その最後は中学一年で止まっていた。小さな町で生まれ育ったからこそ、もっと広い世界を見てみたくなって県外の大学に推薦入試で入学。受験勉強期間は2週間。たまたま広告で見かけた大学に一発で合格した。


 大学生活。一人暮らしをスタート。初めて広い世界を見た。多様性って言葉を初めて実感した気がした。それはもう楽しくて友達もたくさんできた。そして、自分なりの楽しみやストレス発散方法もできた。


 映画館に行く。展覧会を見に行く。これが何より楽しく、地元じゃできない経験や山ほどあったし、地元にないカラオケ、ゲーセンも行った。部活三昧だった地元での生活から程よく“遊ぶ”ことと“おしゃれ”を知った。初めてのメイク。初めて自分で服を買った。自分で着たい服を着るのはテンションが上がった。楽しかった。初めて自分を知った。


 そしてここでも可愛がられた。友達にも先輩にも可愛がられた。


 そんな順調に着ていた人生を転落させたのは就職活動。もうひたすらに頑張った。何社もエントリーして、何社も受けた。添削も対策も必死にした。


「吹奏楽部で全国大会。成績もいいし、ここまでしっかりガクチカもある。何がダメなんだろうね。」


 添削する度に言われた。そんなのこっちが教えて欲しい。

 性格に難ありかとも思い、周りの友達にやんわりと聞いてみた。


「いや、私ほんと性格黒くなった気がする。」

「ええ、琴葉ちゃんで腹黒なんて私はもっとドス黒いことになるよ。」


 そう言われた。

 周りから見た私は「かわいい」「なんでもできる子」そのイメージが強くなっていた。そのイメージが私を苦しめた。

 特に「なんでもできる子」は「一人でも大丈夫」「しっかりした子」になっていた。でも、実際はそんなことはない。ただ、器用にできていただけで一人でも大丈夫なんてことはなかった。でも、そのイメージで私はなんとなく周りには頼れなくて甘え方を忘れてしまった。

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