独り暮らしの女性会社員が色々やる話

第28話 戦後処理な話

『戻ったか、サキュバス加奈よ』

「魔王様、申し訳御座いません。熱い聖剣の前になす術もなく敗れました。」

『まあ良い。相討ちだからな。』

「相討ち？」

『聖剣を持つ勇者の魅了には成功している。他の手の者には被害は出まい』

「そ、そうなのですか？」

『そうだ。お前が他の男を惑わせなくなったとしても、あの者をお前が惹き付けられれば問題ない』

「ははっ、かしこまりました」

『よくやった。これでもう会うことも無かろう。・・幸せにな』

・・・魔王様いいやつ？

なんか、どうでもいい妄想をしてた。

小次郎さんとの決戦デートを経て、正式に婚約することになりましたので、まずは親に報告の連絡をしました。

「あ、もしもし母さん？えーと、正式に小次郎さんと婚約したから、その報告しようと思って」

『えっ！本当に？！』

「ホントだよ。冗談で言うような話じゃないでしょ」

『ちょっと、おとーさん！加奈が結婚するって！』

「婚約だってば！」

『そんなのどっちでも一緒でしょ？結婚式はいつするの？』

「具体的には何も決まってないよ。婚約しただけだから」

『うんうん。まあ一度二人でウチに顔出しなさいな』

「あ、うん。彼に予定聞いて連絡するね」

『お父さんが　娘は渡さん！　とかやってみたいんだって』

「はぁ？！まじで？」

『冗談よw 待ってるからね～』

まぁ職場が同じ母さんは小次郎さんの事をご存知な訳だし、そこまで驚くようなことはないかな。父さんはどうだか分からないけど。

反対に職場にいるパート従業員の娘を嫁に貰う小次郎さんはどうなんだろう？職場でいじり倒されそうな気がしますね。

ま、実家は特に問題ないでしょ。あとは職場だな。

週明け。出勤し、正式に婚約した事を課長に伝えてから、来年の春には転勤に着いていくことになる事も告げると、さすがに慌て出します。

そして真面目なミーティング。お題は頭数が減ることに対する対応とその期限の明確化。

基本的な日常業務は課長も志穂ちゃんもこなせるし、雷雨の日に説明会のあったシステムが年明けに導入されるので、ちゃんとメンテすれば日々の伝票入力なんかは格段に楽になる。

あとは週次や月次で私がやってた事を当面は課長と志穂ちゃんで分担してやれるようにする。それと同時進行で、新人が配属されたら使えるようなマニュアルの整備を行う。

まぁ大体こんな内容になりました。

「はぁぁぁ。加奈さん寿退社しちゃうんですね」

「うん、そうなるね」

「加奈が一番引き留め難い理由で退職することになるなんてなぁ」

「課長、どーゆー意味です？」

「だってなぁ・・」

「ですよねぇ・・」

ミーティング後、なんかしんみりしてしまった。

「やること色々決めたばかりでテンション下げないでくださいよ」

「ん、そうだな」

「ん、そーですね」

「まだ何ヵ月も先ですよ」

「そ、そうです。まだ時間はありますよね！」

「そうそう。まだ先は長いです」

「志穂、素直に祝ってやれよ？」

「ん？課長よりは素直に喜んでますよ？」

「俺も仕事が増えるんだから仕方ないだろ」

「拘束時間伸びるだけじゃないですか。素直に悔しがったらいいのに」

「ばっ、悔しくなんかねーよ」

「課長？」

「ちょっと寂しいって思って悪いか」

「あー、感傷に浸るのも早すぎます」

「厳しい部下に恵まれて幸せだよ」

なんだかんだ言いながらも、職場は回るようにしなきゃね。

「加奈さん、これからもまだ・・時間はありますよね？」

「志穂ちゃん？」

「・・なるほど。まだ志穂は期待してそうだな」

「課長？」

なんだろう？少しだけ二人のモチベーションが上がった気がする。まぁ低いよりはいい？

「加奈さん、プロポーズを受け入れる決め手は何だったんですか？」

「決め手？」

「ですです。もともと悪い人ではなさそうな事を言ってましたけど、乗り気ってほどでは無いと思ってたので」

「あ、ああ。もともと好感は持ってたし、転勤での期限やら真剣に私と結婚したいっていうのを言われて、かな？」

「彼に応えたいって思ったんですか？」

「んー。こんなに自分が求められる事があるのが嬉しかったというか・・」

「つまり、男を完全魅了した感じか。さすがだな」

「課長？！」

「あー・・そーゆー事なら納得。加奈さんなら落とせそうです」

「志穂ちゃんまで？！」

「エロい事をシタら落ちたか？」

「いやいや！プロポーズされたほうが先ですから！」

「「ふーん」」

「なんか信用なさそう・・」

「課長、プロポーズのほうが先ですって」

「プロポーズの後にシタって事だよな」

「にゅ・・・」

「ま、スッキリしてるみたいですもんね。憂いがないというか」

「にゃ？」

「加奈さん、本当にエロい呪いとかが解けたんじゃないですか？」

魔王様、ここで聖剣に敗れたって言ったらどうなりますかね？

『言わんで良い。丸く収まるのを掻き乱すな』

ですよねー・・って、別れを告げた魔王様に見物されてる？

「ま、俺も色々と踏ん切りついたよ。とにかくおめでとう。まだ当分の間は宜しくな」

「あ、はい。宜しくお願いします」

そう、仕事の整理、引き継ぎして退職、結婚や引っ越しの準備、筋トレ、やるべきことはいっぱいあるのだ。

日常業務をこなしつつ、志穂ちゃんに教えながらマニュアル制作できる時間は、多分そんなに多くない。真面目にやらなきゃね。

ゆーちゃんの結婚式は友人として出るんだよな。その後に親戚の仲間入りするとは、なんとも微妙でややこしい。何はともあれ小次郎さんと一緒に両家へのご挨拶をするのが最初かな。

あと、個人的に小次郎さんの隣にいて可笑しくない程度に鍛えようと思ってたりします。今もぽっちゃりしてる訳じゃないけど、彼と並んで立つのには、もっと引き締まった体にしたいんですよね。

色々と頑張らねば。