第26話 淫魔と魔法使いの弟子の話

職場の面々とある意味前より仲良くなって、軽く下ネタも飛び交うようになってしまいました。今度新人が配属されたら逃げ出すんじゃないかと心配しつつ、日々は過ぎていきます。



お見合いのあと、お相手の小次郎さんとは毎週デートしています。

ドライブ好きとは聞いてますが、電車で一時間以上時間が掛かる距離を車で駆けてきます。

先々週の日曜は映画、先週の土曜は美術館。そして今週の日曜は公園に行く予定になっています。


最初のお見合いで私の休日を聞かれ、祭日関係なく土日が基本的に休みと伝えました。小次郎さんは土日のどちらかに必ず出勤しているようで、残りの週末休み一日を私のために使ってくれています。

映画の時も美術館の時も、事前に色々調べてるのが分かるくらい話題の引き出しを準備してくれていて、あっという間に時間が過ぎ、退屈してる暇がありませんでした。

あと、割りと色んな事を好きだとか苦手だとか教えてくれます。そして自分の好き嫌いを伝えたら私にもほぼ必ず聞いてきます。

なんというか小次郎さんの事を知って欲しい、私の事を知りたがっている、そんな意図が伝わってくるんですよね。


見た目を含めて第一印象は良い。デートも楽しく過ごせる。仲良くなりたいという意思を隠さず伝えてくる。めっちゃマメで良い人だと思います。

正直、なんで彼女がいないのか謎です。


どうして今お付き合いしている人がいないんですか?とか聞くのはお見合いのタブーだそうです。お見合いの始まりは今のお互いを知ること。

今の私達は仲良くなれる可能性のある知り合いといった段階。お互いにこれっきりにしますと言う事が出来る距離になります。

恋愛歴とか性癖みたいな話は、知り合いよりも親密な関係になりたいと思うようになってからじゃないと聞いちゃいけない。

ただの知り合いじゃ物足りない、正式にお付き合いしても良いと思えたら、一歩踏み込んでお付き合いする上で知りたいことを聞く権利を得る感じです。


そんなお見合いのルールは置いといて、小次郎さんのほうは割と好意を隠さず堂々と接してきていると思うんだよね。

そんな好意を向けてくれる相手と出会って、楽しく過ごせているのに、どうして私は惚れるベクトルに傾かないのか?


ゆーちゃんのお兄さんだから?

母さんの職場の人だから?

ぶっちゃけその辺は小次郎さんの事を好きになる事は関係ないんだよね。


まぁ少しだけ思い当たる事といえば、以前好きだと言われ、だんだん私も好きになっていった人とは結局うまく行かなかった経験があるから。

志穂ちゃんカップルを羨ましいと思うけど。あれ以来、彼氏が欲しいとは思わなくなっている私がいます。


私は、また凹むのが怖いのかな。恋愛に臆病になってるかもしれない。

まぁ、隣のおじさんに助言された通りの理由ならやりようがあるのかもしれない。エッチの時にエロ過ぎなければいいんだから。


日曜はお見合いから三度目のデート。少しだけ踏み込んでみようかな?なんて考えていました。


おじさんの助言を思いだしながらソロ活動に励んだ翌日。程よく筋肉痛な日曜日。

公園デートは思ってたよりずっと楽しかったです。過ごしやすくなった気温、綺麗に整備された歩道と迎えてくれる花と景色。

石窯を使った手作りピザ体験なんてのもできて、小次郎さんに美味しいと言ってもらえたのは素直に嬉しかったりしました。


「加奈さん」

「はーい」

「ちょっと急ですが、真面目なお話があります。良いですか?」

「あ・・はい、伺います」

「来年の春に、人事異動で本社勤務することになりそうなんです」

「えっ・・」

「元上司に推薦されてまして、決まれば東京に行くことになります」

「・・はい」

「出来れば加奈さんも一緒に来て欲しいです。自分と結婚してくれませんか?」

「・・・」

「自分は、これからもずっと加奈さんと一緒にいたいと思っています」

「・・はい」

「お見合いから数回お会いしただけで決めろというのは時期尚早だとは承知していますが、偽りない本心です」

「それは・・伝わっています」

「急がせるつもりはありませんが、YESかNOのお返事を頂きたいです」


本当に唐突で急な話でした。一歩踏み込んでとかの話じゃなくて、最終ジャッジです。


「あの・・小次郎さん、色々お聞きしてもいいですか?」

「はい。何でもお尋ねください」

「その、どうして私なんですか?」

「加奈さんが好きだからです」

「う・・・私のどこをそんなに気に入ってくれたんでしょう?」

「あー、実はお見合いの前から好きなんです」

「にゅ・・」

「優子の友達としてお会いした頃から片思いしていました」

「あぅ・・」

「加奈さんの涙を忘れられないって言ったの、本当の事です」

「ちょっと待って。タイム、タイムです」

小次郎さん、ここぞとばかりに言われる側の心臓がどうなるか気にせず言ってるんだろうな。

こういう時だけはガンガン押してくる。なんでなの?


「・・その、ぶっちゃけますが、自分はシスコンです」

「・・は?」

なんつった?


「優子って、どっかのアイドルグループで踊っていてもおかしくないくらい可愛いよね。」

「え、ええ。綺麗で可愛いですよ」

「優子より可愛い女の子なんかいないって疑い無く思ってたんです」

「はぁ」

なんか私の中の小次郎さん像が壊れてく。


「その優子がよく加奈さんの話をしててね。優子が可愛いって言う人ってどんだけ凄いんだろって思ってました」

「あー・・なんか、ごめんなさい」

「いえ、初めて会った時は優子の言う可愛いが分からなかったけど、泣き顔みた時にストンと腑に落ちたというか、可愛いって思ったんです」

「へ?」

「上手く言えないんだけど、頑張って、結果を残せなくて、悔しくて、そんなストレートな感情を出してる女の子が可愛くて守ってあげたくて、優子の代わりにナデナデしたくて」

「にゃぅ・・」

「その日からです。優子より可愛いコを好きにならないはず無いです」

「・・基準がゆーちゃん」

小次郎さんに彼女が居なかった理由が腑に落ちたよ。


「トドメに優子の友達でウチに泊まりにくるほど仲良くしてたのは加奈さんだけだったし」

「あ・・はい?」

「優子と一緒にお風呂入ったとか聞いて物凄く羨ましかった」

「はぁ・・」

「そのあと、優子と加奈さんのエロい喘ぎ声が聞けたのが最高でした」

ハ?!


「壁に耳当てて聞いてました。めっちゃ凄くてアレ以上の興奮は経験ありません」

「うわぁぁ!!」


「自分が加奈さんより惹かれる相手を見つけられないのは、加奈さんが原因です」

「うぁ・・なんかスミマセン」

「謝らなくていいですよ。加奈さんを好きになって良かったから」

何も言えない


「ちなみに加奈さん、練習の成果ありましたか?」

「えっと・・?」

「エッチで気持ち良くなりたくて練習をしてたとか」

全部筒抜けかい!


「ええ、言ってましたね」

「それで、どうですか?」

「なりました・・」

「自分の知らない誰かと加奈さんがしていたと思うと複雑ですが、興奮もします」

ん?


「今までの相手はエッチしても加奈さんを射止める人はいなかった。そして自分に順番が回ってきたと思えばチャンスなんです」

ニャ?!


「練習してエッチで気持ち良くなれるようになった加奈さんを、自分は満足させられそうですか?」

そんなん聞く?


「小次郎さん、受け取りかた次第で、私の恥ずかしい過去をネタに身体を要求されてるように聞こえるんですが?」

「そうですね」

「・・なるほど。分かって言ってるんですね」

「自分も恥ずかしい所はさらけ出した上でプロポーズしているつもりです」

「結婚したいと思える身体の相性なのか確かめてみないかって事ですか?」

「どのみち返事がNOならエッチは出来ませんからね。夢に見た加奈さんとエッチする機会は逃したくありません」

そうきたか。


「わかりました・・試してみますか」

「おー!ありがとうございます!」

「結果的に小次郎さんががっかりするかも知れませんよ?」

「そんなことは絶対ありませんから!」




隣のおじさん、助言してくれたのにごめんなさい。

プロポーズまでしてきた人ですし、結果がどうなるにしても全力で相手してみます。




「小次郎さん、本当に期待し過ぎはよくないですよ?」

「期待するなと言うのが無理です。加奈さんが初体験の相手なんて嬉しすぎます」


「・・えっ?・・初体験?」

「はい!」




三十歳まで童貞だと魔法使いになれる・・だっけ?


『行け!小次郎のジョブチェンジはサキュバス加奈が阻止するのだ!』

「必ずやご期待に応えてみせますわ♪(ニッコリ)」

どーしてこうなった?魔王でも勇者でもいいから、責任者出てこいや!


我ながら、よくこの状況で妄想できるなぁ。

ま、過去最強の相手になる予感はします。










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