第18話 課長と後輩と手の話
月曜日。普通にお仕事してますが、あまりはかどってるという感じではなく。
ちょっと仕事が一段落するとお見合いの返事をどうするか考えてしまいます。
深く考えずに会ってから悩むべきなのか、今は結婚を考えていないと断るべきなのか。こんな事で悩む日が来ようとは思ってませんでした。
「はぁぁ・・」
「あれ、加奈さんお悩みですか?」
私のため息に後輩の志穂ちゃんが反応してくる。
「まぁね。早いとこ返事しないといけないんだけど決められなくってね」
「いつも 悩むくらいならやってみれば? とか言う加奈さんらしくないです」
「人生初の体験だからさ。真面目に考えようとして深みにハマってるの」
「初体験って・・てっきり加奈さんは経験者だと思ってたのに」
「志穂ちゃん、何の話?」
「ナニというか、アレの話?」
「違う違う。お見合いの話が来てて、その返事を考えてるのよ」
「え?!加奈さん、お見合いするんですか!」
ガタバサッ
音がした方を見ると、課長が書類の束を床に落としていました。
おや、私がお見合いすると聞いたら動揺したのかな?
「ちょっと石川」
「「はい」」
「すまん、石川加奈、ちょっといいか?」
「あ、はい。何でしょうか」
席を立ち課長の所へと向かう。
ちなみに、ウチの実家の近所には石川という名字の家が多い。友達のゆーちゃんも石川なので、自然と名前呼びが定着してました。
その地元を離れているにも関わらず、春から増えた後輩は石川志穂さんだったりします。
「あー、就業中に話すのは程々にな」
「スミマセン、志穂ちゃん黙らせます」
「ああ、あと・・・お見合いって聞こえたけど、見合いして寿退社する予定もあるのか?」
「へ?いやその、見合いするかしないかの返事を悩んでるだけで、そこまでは」
「そ、そうか。立ち入った事聞いてしまったな。悪い」
「いえ、気にしないでください」
テテテと席に戻る。なるほど、上司としては私が寿退社→部下の補充にも関わるネタだったのか。さらに見合いするハードル上がった気がします。
「とりあえず志穂ちゃん、その話題は伝票処理終わるまで無しね」
「あぅ・・わかりました」
休み明けでも、手入力で処理しないといけないものはかなりある。これで当分静かになるはず。
「そっかぁ・・加奈さん結婚するんだ・・」
「伝票打ちながら気になるワードを漏らさないでよ」
「伝票はちゃんとやってますー」
「志穂ちゃん、会話って話し掛けられる相手の処理能力もつかうんだよ?」
「うぃ・・今は黙ります。後で聞きますからね?」
「どんと来い」
そんなやり取りをして昼休み。社員食堂で定食を頼み、志穂ちゃんと向かい合って食事タイム。
食べながら私は母にお見合いを受ける旨のメッセージを送りました。
「加奈さん、結局お見合いするんですね」
「志穂ちゃんが言ってたみたいに、私らしくやってみてから考えようと思ってね」
「男前~」
「それ、誉めてるんだよね?」
「はい。加奈さんらしくて好きです」
「志穂ちゃんにモテてもなぁ・・」
「・・そういえば、加奈さん彼氏いなかったんですね。意外でした」
「そう?」
「なんていうのか、週末までストレス貯めてても、休み明けスッキリ、ツヤツヤしてるじゃないですか」
「え?そう?」
「てっきり休日に彼氏といいエッチして発散してるんだろうとか思ってました」
「ブッ!なんて事を」
まぁスッキリしてる事は多いかもしれない。
「週末の加奈さんて、女の私が見てても時々エロいんですよね」
「ちょっ・・志穂ちゃん?」
「ちょっとした仕草ですけど、考え事してる時に、パソコンのモニター見ながら・・」
「な、何かやってたっけ?」
「手の甲で口元押さえてるの、自分で気付いてません?」
「こんなヤツ?」
手をグーにして頬杖みたいにするのは癖みたいなものだと思いつつやってみる。
「キャー!それ!それです!」
「コレ、何かエロいの?」
「今のは週明けスタイル、エロいのは週末スタイルです」
ふむ?さっぱりわからない。
「週末はコレと何か違うの?」
「その・・」
志穂ちゃんが顔を寄せ、小声で続ける。
「週末は自分の指にそっとキスしてますよ」
なんですと?!
「うわぁ、加奈さん無自覚だったんですね」
「まじ?私そんなことしてる?」
「はい。指と唇、どっちも気持ちよさそうで、見てるこっちの顔が赤くなります」
「まじか・・」
「加奈さんの指、触ったら気持ち良さそうとか思ったりしましたし」
「手に?握手とか?」
「いや、もっとそっと触れるような感じで」
「・・こう?」
机の上にある志穂ちゃんの左手に、私の右手でそっと触れてみた。
彼女の手の甲に私の手のひらを重ねる。私よりぷにぷに成分が詰まってそうな柔らかさ。
少し浮かせ、フェザータッチで手の甲を軽く撫でる。
そのまま親指以外の指を、自分の四本の指でそっとなぞる。
爪まで来たら、今度は付け根に向かって戻りながら、志穂ちゃんの指の間に自分の指を差し入れる。
ビクンッ
志穂ちゃん?
慌てて引っ込められた手。
驚いた表情。
赤くなっていく顔。
「お、お先に戻ります!」
大慌てで食堂を後にする志穂ちゃん。
なんか、やらかしちゃった気がする。
午後から志穂ちゃんはめちゃくちゃテキパキ働いた。
帳票印刷したらすぐに持っていってしまう。
配送業者が来たらすぐに受け取り確認にいってしまう。
要するに事務所から、私の視界から消える。避けられてる?参ったなぁ・・・
そうはいっても隣のデスクの住人、ずっと消えてる訳でもなく。なんだか気まずい。
今度は私が席を開けて戻って来ると、志穂ちゃんが課長と話してたらしい。
課長の所から戻って来た志穂ちゃん。なんだかソワソワ。んでこっち見てる?
目を合わせると小声で言ってきた。
「今日、ご飯行きませんか?」
「あ、いいよ」
「ありがとうございます。ちょっと相談乗ってください」
なんだ?この展開は?
その課長が給湯室から私を呼ぶ。
「石川加奈、お茶のストックどこだっけ?」
とりあえず給湯室に行くと今度は課長が小声だった。
「なんか雰囲気おかしかったから、石川志穂に話聞こうとしたら、女の子の悩みだって言われてさ」
「は?」
「加奈はスイッチ入るとエロいらしいから、そういう悩みなら喜んで聞いてくれると思うぞって言っといた」
「な、なんて事を言ってんですか!」
「まぁその、とりあえずスマン。うまくやってくれ」
「はぁ・・・」
避けられるよりはいいのかも知れないけど、私がエロいと聞いて納得するとか、あまり普通じゃない内容な気がする。
何の相談されるんだろ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます