第3話 いざ、営業部へ!

 営業部へ足を踏み入れるのは、社内をぐるりと見て回った説明会の時以来。

 電話が鳴り響いていて、人がたくさんいたのを覚えている。


 迎えに来てくれた、事務の女性は、私たちの緊張を解こうとしてか、廊下を歩きながらも、あれこれと声を掛けてきてくれた。

 きっと、私と広野さんの顔は、緊張で引きつっていたと思う。


 営業部は、3階にあった。

 他には、技術部や社長室、専務室、秘書室がある。


 3階のフロアは、壁がない、一面のだだ広い床。

 幾つもに仕切られた、パーテーションが、壁の代わりらしい。

 古い建物なので、何処を見渡しても薄暗いのだが、一番明るい、煌々と照明が点いた場所が営業部だった。


 ドアを開けると、たくさんの人が、忙しそうに動いている。

 当時の営業スタイルといえば、電話とファックスが主流。

 営業マンにはポケベルも持たせていなかったし、携帯電話なんて一般普及する以前の話。


 電話があちらこちらで鳴っていて、「○○さーん! 1番に、××さんから電話です」なんていう声が、よく上がっていた。


 この番号は、着信した回線の番号。10回線くらいあったかな?

 忙しい時には、全ての外線が埋まったことも。


 営業部の中では、いくつもの細かい部署分けがされていた。

 販促部門や、工場や物流などとやり取りをして、製品の出荷が滞らないように、調整する管理部。

 その他にも、たくさん。


 営業部の一番奥、窓際の明るい場所に、私が配属された国内営業部はあった。


 男性9人、女性5人の職場。

 配属初日から、教育はスパルタ!

 新人は電話を取る!!


 今の時代も、この基本が変わらない会社も多いのだそう。

 電話応対がきちんと出来なければ、それ以上の仕事なんて、まず無理と言われていて、きっちりと仕込まれた。


 当時は、泣きながら電話を取って、「鬼ー!」 なんて、心で悪態をついていたけど、基本は大切。

 新人の仕事で、当然なのかもしれない。


 最初は何を言っているのか解らない、相手の言葉も、繰り返し受けているうちに、聞き取れるようになる。

 それに、新年度には、新人が電話に出るというのは、社会の常識的な部分もあり、先方も承知しているのかもしれない。


 聞き取りやすいように、ゆっくりと喋ってくれる人もいて、とても助かった憶えがある。

 ただ、いつも通りの口調で、「○○だけど、××さんいるー?」 なんて言われると、かなり焦るけど。


 配属初日は、職場の人や、営業部内の他部署への挨拶、電話応対などで、どうにか長い一日が終わった。



 そして、翌日の配属2日目。


 私の人生で “一番長い片想い” を抱くことになる、あの人に出会うのです。

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