第5話 開戦

 ヨーサは昨日買った衣服を身に着ける。黒いフード付きのトレーナーに、デニムズボンだ。部屋の前に置いてあった朝食を食べて外に出る。通りには人がいなかった。


 音……音楽だな。大通りで何かやってんのか。


 建物と建物の間を歩いていく。徐々に音が大きくなっていく。ヨーサが大通りに出ると、人の背のみがみえた。


 な、なんなんだ……?


 ヨーサはまわりの声を聞き取ろうと耳を澄ます。


「がんばれよー!」

「いってらっしゃーい」

「絶対に勝ってね~」


 あぁ、これ……


「国民の皆様に、敬礼」

 ザッ


 歓声があがる。ヨーサは人差し指に親指の爪を食い込ませ、その場をあとにした。


 チィサムは、戦地におもむく軍隊のパレードを自室から眺めていた。すると、扉がノックされる。


「チィサム、入るぞ」

「父様、おはようございます」


 チィサムは白髪混じりの茶髪をみる。


「白髪というものは、その人の苦労などをあらわすものとして文章に使われていることもあるとか」

「その人とは私のことか」


 ヌワートは冗談めかして言い、イスを動かしてチィサムの前に座る。チィサムは訊く。


「なんの話をしにきたのですか?」

「本当に、戦争をするのか」


 ヌワートは多少睨むように言う。チィサムは溜め息をついて答える。


「何度も『する』と答えてますよね。父様も納得するように、国民の意見もきいて」

「だが、彼らは同盟国だ。それに」

「昨日も話したではありませんか」


 チィサムはヌワートを睨み返す。


「魔族が国民を襲いました。しかも10人以上。亡くなってしまった者もいます。これは一大事なのです。同盟国に傷つけられたという事実自体も。この国は国民によってできているのですから」


 チィサムは席を立ち、ヌワートを見下ろす形で言い放つ。


「戦争は決定事項。魔国は私の占領下に置きます、絶対に」


 チィサムは部屋を出て行った。去り際、ヌワートにこう言い残して。


「たとえ父様の旧友でも、容赦はしません」


 残されたヌワートは深い溜め息をついてひとりごちる。


「やはり戦争は止められそうにないよ……テグキナが亡くなったら、ヨーサがどうなるんだか……あぁ収拾がつかなくなりそうだなぁ」


 髪をかき乱し呟いた。


「そりゃ白髪も増えるさ」


 チィサムは3階に行き、指紋認証と虹彩認証を行なって中に入る。宰相が振り向いて伝える。


「おはようございます、殿下。通信は良好です」

「そうか、良かった。1日半で調整を終わらせるように命じたから、不安だったのだ」


 チィサムは空いているイスに座り、宰相や他のオペレーターと一緒にモニターに向かった。

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