第4話 過去の夢
魔国にある僕の家。3階には父さんの部屋がある。父さんに呼ばれて来たけど、なんの話だろう?
「父さん、入っていい?」
「いいぞ」
僕の背の2、3倍ある扉を押して中に入る。父さんは奥の大きなイスに座ってこちらを見ている。手もとには紙があり、インクボトルに万年筆を立てかけている。
何を書いていたんだろう?
「ヨーサ、今から大事な話をする。ひとまず座れ」
「うん」
父さんと机を挟んで向かい合う。とてつもなく不安になってくる。
「用件は主に3つある」
僕は思わずつばを飲み込む。すると、父さんは微笑んで言った。
「そんなに緊張しなくてもいいよ。1つ目は最初から決まっていたことだから」
「それって」
「ああ。明日からヨーサに魔王の座を引き継ぐ、ということだ」
驚いた。いや、いつか僕が王になるのは知っていたけど。まさかこんなに早いだなんて。
「何をそんなに驚くんだ。おまえはもう、大抵の業務はできるだろ?」
「うん、できるけど……早すぎない?父さんが魔王になったのは、えっと、35歳くらいでしょ?」
「まあ、そうだが」
父さんは少し顔をしかめる。
「これは、2つ目の用件が絡んでくる」
「もしかして、戦争のこと?」
「もしかしなくても、人族の国との戦争だ。あっちが文書を寄越した」
そう言って右側に置いてあった手紙をひらひらと振った。
国中に流れていたウワサは本当だったんだな。
「でもなんで人族が?同盟国だし、それにヌワートおじさんだって……」
「息子のチィサムに王の座をゆずったんだと」
そういえば、チィサム……くん? と会ったことないな。
「この手紙には、『魔族が人を殺した』ことと、それは『同盟を破った』ことになること、そして、そっちがその気なら『戦争になることも厭わない』旨が書かれてあった」
「でも、その魔族は今刑罰を受けてるよね」
「ああ。しかし、例えひとりでも大切な命を失ってはならない」
「だけど……」
人族だって、魔族を虐げている奴らもいるじゃないか。
そう言おうとしたが、父さんに遮られる。
「とにかく、戦争は起こるだろう。もちろん抵抗はするさ。だが」
父さんの視線が下にいく。
「勝率は、せいぜい2%だな」
「科学兵器のせいだね」
「正解だ」
僕らは魔力が高いから、魔法を使える。だけどその能力は当然人による。一方科学は、使い方さえわかれば一般市民すら使用可能だ。しかも、威力の調整もできる。
父さんは溜め息をついた後、僕を見て言う。
「最後は、おまえを一時的に人族の国に行かせることだ」
「……は?」
僕が、僕だけが、逃げるってこと?
「人族の国に行ったほうが安全だろう。本物の魔王はこれからが大事なのだから、万が一に備えて隠れるべきだ」
「いや、でも」
魔国のために戦えないの?王になるのに?
「民には国境の壁の空洞を避難場所として使わせる。兵は囚人が最前線で、その後に軍を置く」
「ちょ」
「おまえには、戦争が終わった後に民の救出と国の復興をしてもらいたい」
「ちょっと待って!」
思わず音をたてて立ち上がる。父さんは驚いた顔で訊く。
「どうした?」
「父さん、死なないよね?」
不安しかない。なぜ戦後の話までしているのか。父さん自身のことも説明されてない。魔王の座はもらえるけど、僕は逃げて父さんは軍の指揮するの?
父さんは優しく笑った。
「おまえを逃がすのは万が一のことがあったときのためだ。俺に死ぬ気はないよ」
「……わかった」
絶対に? とは言えない。信じてる とも。だって戦争が始まるから。ただ、涙をこらえることしかできない。手を強く握る。
父さんは立ち上がって、優しく頭をなでてくれた。
「絶対に生き残ってくれ、俺の愛しい息子よ」
「うん」
自分の部屋に戻っても、指についた爪跡は残っていた。じわじわと痛い……この痛みは、忘れちゃいけない気がする。
ヨーサが目を開けると木板の天井が見える。
いつの間にか寝てたな……あ、魔法解いたままだ。
魔法を使いツノを見えなくした頃、ドアがノックされる。
「夕飯ができましたよ。今日もお持ちいたしますか」
ヨーサはベッドから降りつつ答える。
「いえ、今食べに行きます」
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