第3話 人族の国

 城壁のすぐ側に、2階建ての建物がある。この国では珍しい木造の宿だ。

 2階の1番奥にある部屋で、ヨーサは目を覚ます。身体をのばし、部屋にあった姿見の前に行く。窓のカーテンは完全に閉じており、部屋の扉も鍵をかけている。確認後、ヨーサは目を閉じて、十秒以上かけてゆっくりと息を吐き肩の力をぬく。

 すると黒光りするツノが現れる。目を開くと、強膜が黒くなり黄色の虹彩はさらに光を帯びて金色に輝いている。


 さすがに、寝てる間も魔力を使い続けるのはキツイな……でも誰かが急に入ってきたらとんでもないことになるし……


 ヨーサは肩や首を回しあくびをする。


「疲れてんな……」


と呟きながらローブに袖を通す。そして、目を閉じて深呼吸をし、数秒微動だにしなくなる。ヨーサが次に目を開けたときには、ツノは消え、眼も人族のそれに戻っていた。


 ヨーサは町中を散策する。住宅街では、小さい子達が通りを走り回る。商店街では客を呼び込む声が、ひっきりなしに聞こえてくる。


「そこのお兄さん、私の店に寄ってくれないかい?」


 ヨーサが声のした方を見ると、中年の女性と目があう。


「きっと気に入る服があるよ」

「ん……じゃあ、みさせてもらうよ」


 女性はにっこり笑い、ヨーサを中に入れた。

 店内は、人ふたりがギリギリすれ違えるくらいの幅しかなかった。ハンガーラックやら棚やらが、所狭しと並べられている。


「ごゆっくり〜」


 女性はレジカウンターに戻っていく。ヨーサは思わず呟いた。


「こんなにあったら確かに、気に入る服のひとつやふたつ、みつかるかもな」


 数時間後、何着か購入して店を出たヨーサは、近くの広場に行く。そこにはキッチンカーが止まっていた。ヨーサは大判焼(今川焼)を買い、近くのベンチで食べる。

 ある子どもはブランコに乗り、父親らしき人がその背を押してやる。視線を移すと3人の子どもたちが砂場で何かをつくっている。

 ヨーサは広場の様子を眺めながら、魔国に思いを馳せた。


 大判焼(今川焼)を食べ終え、ヨーサは借りている部屋に戻る。フードをとり、買ってきた服をベッドの上に広げた。


 どれも見たことがない素材だな。これは絹じゃないはずなのに肌触りも良いし……僕が知っていたのでも20年くらい前の布だけど、すごい速さで発展してる。


 ヨーサは服を片付け、カーテンやドアのカギを締めて魔法を解く。ツノが現れ目の色が変わる。ベッドに倒れ込むとまどろみ始めた。


 魔国と同じように、家族が笑って過ごしていた。こっちにもちゃんと平和がある。父さんは、戦争を長引かせないようにすると、言っていたけど、どうするんだろう……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る