第2話 戦争の知らせ

 正面玄関の上方に、円く突き出たベランダがある。そこに2人の兵士が立っている。玄関までのびる幅が広い道路には、国民の3分の1が集まっていた。


「手の空いている者は集まるよう言われたけれど、何かしら」


 民衆はざわついている。すると、宰相がマイクと端末を手に持ちベランダに出る。


「皆のもの、静まれ」


 スピーカーから流れる低音。その場は急に静かになる。宰相が脇に避けると、日の光を反射している金髪をゆらしながら、王がベランダに出る。王は右手にマイクを持ち、左腕を広げて述べる。


「よく集まってくれた。私は国王、チィサム・ヘンリー・タキトゥスである。みなを集めたのは他でもない。私たちのすぐ近くにある脅威――魔国が、この国に宣戦布告してきたからだ!今、みなに問いたい。私たちは戦うべきか、否か」


 民衆はざわつく。数分後、チィサムが口を開く。


「答えは出たか?それでは問おう。私たちは戦いの狼煙をあげるべきだと主張する者、手を天にかざせ!」


 その場にいたほとんどが手をあげる。チィサムはひとつ頷いた後、宰相をみる。宰相は端末から顔を上げて頷く。チィサムは民に向きなおり言う。


「みなの意見、しかと受け止めた」 


 民衆は王を見つめる。


「開戦する!必ず勝つぞ!」


 その場に気合のこもった声が響き渡った。


 一部始終を見ていたヌワートとヨーサはソファに座る。ヌワートは額を抑えて溜め息をつく。


「あんのバカ息子が。やはり1度でも、引きずってでも、魔国に連れていけばよかった」

「まぁ仕方ないよ」


 ヨーサは困ったように、悲しそうに笑う。


「魔族のこと、嫌いなんでしょ?」


 ヌワートは大きな溜め息をつく。


「勘違いしてるだけだってのに」

「ムハマニ母様とモトランガ王妃様のことか」


 ヌワートは頷く。ヨーサは虚空を睨む。


「魔族と人族とで構成されたらしい賊……未だに全員は捕まえられてない……本当に苛つくことだ」


 ヌワートは思い出したように言う。


「そういえばヨーサ、私は『おじさん』なのにモトランガさんは『王妃様』なんだね」

「うん。女性に『おばさん』なんて言ったら失礼でしょ?」

「なんかヒドイ」

「あんま気にしてないくせに」


 2人は笑い合う。先程の緊張感はなかったように。ヌワートは訊く。


「金は持ってきたのだろう?宿はこちらで紹介しよう。隠れに来てるのだから、大通りから離れたところを」

「そうしてくれるとうれしい。ありがとう」

「礼には及ばないよ。こんなことしかできないからな」

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